出典:マイセン本国公式サイト
陶磁器が好きな方なら、耳にしたことがあるであろう「マイセン」。
「最高級の食器」「ちょっと高そう・・・」、そんなイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれませんね。
マイセンは、約300年前、ヨーロッパで初めて硬質磁器を生み出したドイツの名窯。東洋に憧れ、それを模倣するところから始まり、西洋で独自の進化を遂げました。
その優美さやクオリティの高さから、今なお、ヨーロッパ白磁界の王者として君臨しています。
今回は、マイセンがトップの地位を不動のものにしている理由や人気シリーズをご紹介します。これを読めば、あなたもマイセンのとりこになるかも!
東洋磁器への「憧れ」と「情熱」が、欧州で初めての白い磁器を生みだした
出典:マイセン日本公式サイト
マイセンが創立以来、なぜ人々の憧れで居続けているのか、その理由をつかむには、マイセン創立の背景を知る必要があるでしょう。
マイセンが誕生する少し前の17世紀後半~18世紀初頭にかけて、日本や中国の真っ白で艶やかな磁器は「白い黄金」と呼ばれ、ヨーロッパで一大ブームとなっていました。
当時は、東洋から輸入される1枚の皿と精鋭の兵士が交換されるほど、大変高価で貴重なものでした。 各国の王侯貴族たちはこぞって巨額の私財を投じ、次々と中国や日本の磁器を買いあさります。
中でも、ザクセン選帝侯アウグスト強王(アウグスト2世)は指折りの東洋陶磁器の収集家。 王の宮殿には膨大な数の日本の古伊万里や柿右衛門があったと言われています。
出典:Wikipedia(アウグスト2世)
そんなアウグスト強王は、コレクションを一般に公開して、自らの権力と芸術に対する造詣をアピールするのには飽き足らず、ヨーロッパ産の磁器をこの手で作り出し、高価な輸出品として国家を潤すことを思いつきます。
そこで強王は、当時、評判の錬金術師であったベドガーに白磁の制作方法を解明することに専念せよと命じ、城に監禁したのです。磁器製造の秘儀の流出を恐れたからでした。
出典:Wikipedia(ベドガー)
ベドガーは、早速、物理学・数学・哲学の有識者である、チルンハウス伯爵の協力を得て、白磁の開発に着手しました。中国や日本の磁器の現物だけを参考に、日々、実験と失敗を繰り返し、研究に研究を重ね、時が過ぎていきました。
1709年、ついにベドガーはそれまで誰も成しえなかった磁器の製法を解明、翌年1710年、ヨーロッパ初の硬質磁器窯マイセンがその産声を上げました。
ベドガーの血のにじむような努力がその後の西洋陶磁器の歴史を変えたといっても過言ではありません。
その後、絵付師のヘロルトや、成型師であり彫刻家のケンドラーも歴史に残る作品を次々と生み出し、磁器を芸術の域にまで高めた功績は大きく、マイセンなくして西洋磁器の歴史は語れないほどなのです。
マイセンの名を世界にとどろかせた3つの代表作
繊細な磁器を作り上げるその高い技術力と絵付の美しさを兼ね備えたマイセン。中でも有名な3つの作品を紹介します。これらの作品は現在の人気商品シリーズのもとになっています。
1)磁器の白い肌で白鳥の美しさがさらに際立つ「スワンサービス」(Swan service)
出典:Wikipedia(スワンサービス)
このスワンサービスは、皿やティーポット、ろうそくたてなど、食卓に必要とされる食器のセットです。このセットはテーブルウエアの原点とも言われています。白鳥(スワン)を主として、魚や女神など水に関するモチーフと伯爵の紋章が表現されています。
出典:Wikipedia(スワンサービス)
拡大して見ると、レリーフ模様によって白鳥の躍動感が見事に表現されていることがわかりますね。
2)他社がこぞって真似をする人気デザインの本家本元「ブルーオニオン」(Blue onion)
出典:マイセン日本公式サイト(ブルーオニオン)
この絵柄は、1739年に誕生して以来、現在でも人気のシリーズ。
このシリーズの図案のもとは桃やザクロです。しかし、なぜ「ブルーオニオン(青い玉ねぎ)」と呼ばれるようになったのでしょうか。
桃やザクロは中国で繁栄を象徴する縁起の良い柄とされていたため、マイセンでもそのモチーフをこぞって真似しました。
しかし、ヨーロッパではザクロが一般的でなかったこと、また、桃やザクロを簡略化して書いたことで、玉ねぎのような形に変化したことから、「ブルーオニオン」と呼ばれるようになったと言われています。
この模様は、人気を呼び、他社でも盛んに模倣されました。
このデザインの本家本元であるマイセンは、判別がつくように、表の竹の幹の部分にマイセンの磁器の証である「双剣マーク」を入れています(下記写真の下方部の竹の幹部分をご参照ください)。
出典:マイセン本国公式サイト(ブルーオニオン)
3)”王妃に枯れない花を送りたい”という願いから生まれた「スノーボール」(snowball blossoms)
出典:パナソニック汐留美術館(スノーボール貼花装飾蓋付昆虫鳥付透かし壺、ヨハン・ヨアヒム・ケンドラー、1820~1920年頃) 個人蔵
※2019/07/06-2019/09/23に同美術館で行われる「マイセン動物園展」より引用。
小さな白い花が全面にほどこされたこの繊細なデザインはなんと、約280年前の1739年に誕生したからというから驚きです。
以来、マイセンを代表する装飾として、今日まで作られ続けています。
このデザインが誕生した背景には、マイセン創立の立役者であるアウグスト強王の息子(アウグスト3世)が王妃マリア・ヨーゼファに「枯れない花を送りたい」という熱い思いがあったというのも素敵ですね。
出典:Wikipedia(マリア・ヨーゼファ)
「王者」として君臨しつづける理由―300年以上経った今も、伝統を頑なに守り続け、昔と同じ「型」、同じ「手法」で作品を生み出しているから
出典:マイセン日本公式サイト
正式名称「国立マイセン磁器製作所(Staatliche Porzellan-manufaktur Meissen GmbH)」。
マイセンは1710年の創立後、以来今日も一貫してドイツでのみ、製品を作り続けています。
今もなお、磁器の原料も自社工房近くにある鉱山で掘り出しています。原料だけではありません。型や絵付の方法も伝統が今に受け継がれ、頑なに守られ続けているのです。
その伝統を支えるものには2つあります。
1つは、戦火を免れたおかげで残った、70万個を超える型(原型)や、1万色以上の色の配合表などのハード部分の財産。
もう1つは、職人の育成というソフト部分の財産。マイセンの職人の多くは、250年以上前の1764年に工場併設の芸術学校で学んでいると言います。この学校の競争倍率は高く、選ばれし者だけが厳しい専門課程を経て、職人になれるのです。
ハードとソフト、この両方がそろっているからこそ、300年以上昔から愛されている逸品を愛でることができるのですね。
あなたはどんなときにマイセンを使いたい?4つのシーン別にマイセンの人気シリーズをご紹介
1)気の利いたギフトを選びたいとき
親しい方へのお祝いや目上の方へのプレゼントを選びたいときや、普段の食卓をワンランク上の食卓にしたいときに最適のシンプルな食器シリーズを3つ紹介します。
波の戯れ・ホワイト(Wellenspiel)
出典:マイセン日本公式サイト(波の戯れ・ホワイト)
まず、はじめに紹介したいのは、シンプルな白い食器ながらも、エレガントな雰囲気をまとった「波の戯れ・ホワイト」。
マイセンは動物や植物など自然にインスパイアされたものが多くありますが、これも水面に着想を得たシリーズ。
さざ波のレリーフや、ヨーロッパの香りがする丸みを帯びたフォルムが食卓を一層上品に演出します。
出典:マイセン日本公式サイト(波の戯れ・ホワイト)
この商品をストアで見る→波の戯れ
ロイヤル・ブロッサム(Royal Blossom)
出典:マイセン日本公式サイト(ロイヤル・ブロッサム)
次に紹介するのは、「ロイヤル・ブロッサム」。これは先に紹介した「スノーボール装飾」にヒントを得た新しいシリーズ。
プレートやソーサーの外側にほどこされた「スノーボール(がまずみの花)」が料理を華やかに引き立てます。
出典:マイセン日本公式サイト(ロイヤル・ブロッサム)
スワン・ホワイト(Swan White)
出典:マイセン日本公式サイト(スワン・ホワイト)
この「スワン・ホワイト」はマイセンを代表する「スワン・サービス」にちなんだシリーズです。
白鳥の繊細なレリーフが食卓にヨーロッパの風を運んでくれます。また、このスワン・ホワイトに小花があしらわれた、愛らしいコーヒーカップ&ソーサーもありますよ。
出典:マイセン日本公式サイト(スワン・サービス)
2)毎日の食事に彩りを添えたいとき
普段の食卓や気取らないおもてなしのときにもってこいのシリーズを2つ紹介します。
ブルー・オニオン(Blue Onion)
出典:マイセン本国公式サイト(ブルーオニオン)
先ほど、上記で紹介した、現在も大人気の「ブルー・オニオン」シリーズ。このシリーズは、カップ&ソーサーなどのティーセットやプレートはもちろん、花瓶や時計などまで幅広いアイテムがそろっています。
ブルー・オニオンで一式そろえてみるのもおすすめですよ。
この商品をストアで見る→ブルー・オニオン
剣マークコレクション
出典:マイセン日本公式サイト
アウグスト強王の紋章をモチーフにしたマイセンのロゴ「双剣マーク」。
今も、職人が丁寧に一つひとつ手書きしているこのロゴマークを上品にあしらったシリーズです。お茶の時間を彩るティーセットとディナーセットがあります。
この商品をストアで見る→剣マークコレクション
3)優雅にお茶を楽しみたいとき
マイセンといえば、カップ&ソーサーを思い浮かべる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
花やシノワズリ(中国趣味)、幾何学模様などいろいろなパターンがあります。今回は3つの人気シリーズにしぼって紹介します
マイセンのバラ
出典:マイセン日本公式サイト(マイセンのバラ)
テーブルに可憐に咲く一輪のピンクのバラ。19世紀初頭に生まれ、今なお人々に愛される不朽のデザインです。
宮廷の小花
出典:マイセン日本公式サイト(宮廷の小花)
まさに「宮廷」という言葉がぴったりの、気品あふれるカップ。豪華な金彩がさらにゴージャスに彩ります。紺色のほかに、赤色をベースにしたものと、白をベースにしたカップもあります。
出典:マイセン日本公式サイト(宮廷の小花)
インドの花
出典:マイセン日本公式サイト(インドの華・ピンク)
マイセンは、日本や中国などの東洋の磁器を真似したところから始まり、当初はシノワズリ(中国趣味)の絵柄も好んで使われました。
このシリーズは「インドの華」と呼ばれていますが、実際には、日本や中国の東洋磁器に描かれた花をモチーフにして誕生したものです。色はピンクのほかに、グリーンもあります。
4)置いて、見て、眺めて。空間を彩りたいとき
アウグスト強王は自身の権力を誇示するために、古伊万里や有田焼のような東洋の絵柄や重厚なバロック調の作品を好みましたが、王の亡き後、マイセンでは徐々に人形や置物など、より小さなものも製作されるようになります。
中でも磁器人形はマイセン人形と呼ばれ、なめらかな質感に加え、愛らしい表情やほほえましい仕草から、年代、国を問わず、爆発的な人気を生みました。
人物
出典:マイセン日本公式サイト(人形 ヘンチェルの子どもたち ミルクを飲む子供)
人形にもたくさんのシリーズがありますが、今回ご紹介するのは、時を超えて愛されている「ミルクを飲む子ども」。
子どものやわらかでかわいらしい表情が表現されているだけでなく、ミルクカップにブルー・オニオンのデザインがほどこされ、きちんと双剣マークが描かれているところも細やかですばらしい作品です。
動物
出典:パナソニック汐留美術館(猿の楽団、ヨハン・ヨアヒム・ケンドラーとペーター・ライニッケ、1820~1920年頃、個人蔵)
※2019/07/06-2019/09/23に同美術館で行われる「マイセン動物園展」より引用。
マイセンを代表する人形である「猿の楽隊」シリーズ。いきいきとした表情と動きが細部にわたって表現され、人々の心をつかんできました。
いかがでしたか?
今回ご紹介した作品は、マイセンの作品の中でもごく一部です。日本でもマイセンに関連する展覧会や美術館があります。
マイセンが気に入った方は一度、足を運ばれるといいかもしれませんね。めくるめく、マイセンの世界にどっぷりつかってください!
この商品をストアで見る→マイセン
展覧会&美術館情報(2019年6月現在)
2019年7月開催!マイセン動物園展
期間:2019年7月6日(土)〜9月23日(月・祝)
場所:パナソニック汐留美術館(東京都港区)
https://panasonic.co.jp/ls/museum/exhibition/19/190706/index.html
箱根マイセンアンティーク美術館
神奈川県足柄下郡箱根町強羅
http://www.hakone-meissen.com/
参考資料
パナソニック汐留美術館「マイセン動物園展」(2019/7/6-2019/9/23開催予定)
『欧州陶磁紀行』(世界文化社)
『西洋陶器入門』(岩波新書)
『すぐわかる ヨーロッパ陶磁の見かた』(東京美術)
『マイセン』(玉川大学出版部)