中世の約1000年間、イベリア半島の中心都市として栄えた都市
トレドは、スペイン中部のカスティーリャ・ラ・マンチャ州(Castilla-La Mancha)にあり、首都であるマドリードからは日帰り圏内になります。
トレドの歴史はとても長く、最初にこの地が「首都」とされたのは560年で、ローマ帝国の東西分裂により成立した西ローマ帝国が滅亡した後の時代にまでさかのぼります。
出典:depositphotos.com(トレド)
まずは、ゲルマン系王国でキリスト教を国教とする西ゴート王国が、メリダ(スペイン中西部の都市)からこの地に遷都しますが、この西ゴート王国は、イスラム王朝であるウマイヤ朝のイベリア半島進出によって711年に滅亡してしまいます。
この後、数百年の間、トレドはイスラム勢力の支配下となりますが、文化面でいえばキリスト教世界からも学者が訪れ、イスラム教とキリスト教の融合する文化都市として発展します。
11世紀にはいると、キリスト教徒がイスラム教徒からイベリア半島を取り戻そうとする動き(レコンキスタ、国土回復運動)が盛んとなります。
1085年には、キリスト教勢力であるカスティーリャ=レオン王国のアルフォンソ6世がトレドに入城し、以降、1561年に、フェリペ2世がマドリードに遷都するまでの数百年間、文化・政治・経済の中心として、鉄製品や陶器などの生産地として繁栄しました。
出典:Wikipedia(12世紀に描かれたアルフォンソ6世像)
ルネサンス期のスペインを代表する画家エル・グレコ
トレドといえばこの川で囲まれた旧市街の風景で有名で、この歴史ある旧市街は、世界遺産にも登録されています。
歴史が示唆する通り、複数の宗教の交差点となり、スペイン黄金時代から時が止まったような雰囲気のある街並みが特徴です。
主要な観光スポットとして、カテドラル(大聖堂)、サン・トメ教会、グレコの家などがありますが、いずれもルネサンス期のスペインを代表する画家であるエル・グレコの作品が多数あることで知られています。
エル・グレコはギリシャ人でしたがイタリアに渡り、このトレドで暮らしたそうです。
もともと宮廷画家を目指したそうですが、当時の王フェリペ2世にあまり評価されず、一方で宗教関係者や知識人からは評価されていたため、現存する作品は宗教画が多く残っています。
力強い独特の人体表現が特徴的で、一度見るとなかなか忘れられない印象的な絵画で、いろいろな作品の展示されている美術館へ行っても、エル・グレコの作品はすぐに目を引きます。
出典:Wikipedia(エル・グレコの最高傑作と言われる「オルガス伯の埋葬」)
刀剣と陶器と「ダマスキナード」
もう一つのトレドの楽しみは、散歩とショッピングです。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の文化が交差した旧市街は、細い路地だらけ。
トレドの特徴といえばこのような細い坂と路地で、旧市街にはお土産屋さんが山ほど入っており、トレド名物のマサパン(アーモンドの粉末と砂糖で固めた伝統的なお菓子)を食べながら歩き回りましょう。
出典:pixabay.com(トレド)
出典:Turismo de Castilla-La Mancha(マサパン)
お土産としては、特に刀剣類が有名です。
もともと、ローマ時代から武器の調達地として知られていましたが、その後も長い間、イスラム教徒とキリスト教徒の戦いの地となったこともあり、中世においてはトレドの武器類は一大ブランドとなっていたそうです。
実用品としての剣の強度を高めるために鋳造技術が高められましたが、一説には日本からトレドに武士がやってきて、刀と脇差の鍛造を行ったという話もあります。
刀剣類をお土産として持って帰るのは困難だと思いますが、まるでRPGゲームの世界に入ったと錯覚するような中世の雰囲気を楽しむことができます。
出典:depositphotos.com(刀剣類の土産物屋)
陶器も忘れてはいけません。
トレドの陶芸品は、イスラム文化の下で花開きました。元来高級食器の制作を行っていましたが、その後、製品が一般庶民にも広がってくるにつれて、地元での使用が増えていき、ひいてはお土産となっているのが現状です。
白地に青の線が入ったものは14世紀ごろのもの、スペインの陶器の模様としてよく知られるフルーツ柄は17世紀ごろのもの、など種類は様々です。
お気に入りをぜひ探してみてください。
また1時間半ほど足を延ばすと、タラベラ・デ・レイナという、スペインでよく知られる陶器の街を訪れることもできます。
出典:depositphotos.com(トレドの伝統陶器)
また、特に「ダマスキナード(Damasquinado)」と呼ばれる、手作業で金や銀の糸を手作業ではめ込んでいく工芸品は、トレドの特産品として他の地域にも「輸出」されることもあるトレドならではの品です。
この細工は金工象嵌と言われ、中東・シリアのダマスカスからこの名前が付いたと言われています。少し値が張りますが、思い出の品として気に入ったものを見つけて持ち帰るのもよいかもしれません。
出典:depositphotos.com(ダマスキナード)