フランスで「最も美しい村」のひとつムスティエ ・サント・マリー村
南仏マルセイユから車で約1時間半、プロヴァンス=アルプ=コート=ダジュール地域圏のアルプ=ド=オート=プロヴァンス県にあるムスティエ・サント・マリー(Moustiers Saint-Marie)という小さな村をご存知でしょうか?
フランスのグランドキャニオンと言われるヴェルデン渓谷と、2200ヘクタールの巨大なサント・コワ湖のすぐ近くに位置する、人口は約700人の本当に小さな村です。
岩に囲まれた非常に稀な地形と美しい湖、そして青く輝く空。
こんなに小さな村ですが、フランスで最も美しい村の一つに指定されており、ムスティエ焼きや素晴らしい絶景を眺めに、世界でも知られた観光地となってきています。
出典: depositphotos.com (ムスティエ・サント・マリー)
村にはその地形を生かした名所があり、262段の石の階段を登った先にある崖の上の教会、ノートルダム=ド=ボヴォワ。
プロヴァンス地方の伝統的な噴水。村にはオリーブ畑もあり、他にはない風景と可愛らしい街並み。
この小さな村はバカンス時期には、キャンピングカーで近くに宿泊する多くの観光客で賑わいます。
出典: depositphotos.com (ムスティエ・サント・マリーの階段)
また、この村のシンボルである星の伝説。断崖の岩と岩の間に鎖で星が繋がれています。
伝説には、十字軍の兵士がイスラエルに出兵後、無事に帰還したことを感謝して星を掲げた説、また敵対するある村の男女が心中し、その家族が平和を祈り、星を掲げた説などがあります。
何故、そんな絶壁の間に星を掲げたのか。景観とあいまって、とても神秘的であることは間違いありません。
出典:Wikimedia Commons (岩と岩の間に鎖で繋がれた星)
ムスティエ焼きの歴史
この神秘的なムスティ・サント・マリーという村の歴史は古く、紀元前にはこの地に人が住み始めていたとされています。
5世紀頃にこの小さな村は作られ、6世紀に修道院が築かれ、名前の由来となりました。
ムスティエ焼きの始まりは中世の時代、始めは釉のかかった自然な焼き物で、緑と茶色の色合いのみでした。
イタリア人修道士のピエール・クレリッシー(Pierre Clérissy)が1670年代から、この地で陶工として定着し、白いエナメルの秘伝を伝えたことで、現代のようなムスティエ焼きが出来上がったと言われています。
出典: Académie de Moustiers (ピエール・クレリッシー)
出典: Académie de Moustiers (初期のムスティエ陶器)
ルイ14世の時代に、財政難に陥った王宮は金と銀の食器から経済的な陶器に変更する為、ムスティエ 焼きに目をつけ、王宮から命を受けたムスティエ焼きは名声を得ることとなりました。
しかし、イギリスの硬質磁器の流行により、1830年には全ての工場が閉鎖に追い込まれてしまいます。
その後2世紀に渡りムスティエ焼きは眠り続け、1927年についにマーセル・プロヴァンス(Marcel Provence)の手によって復活を果たします。
現在は11のアトリエと陶器美術館(Musée de la faïence)がこの伝統的なムスティエ焼きを守る為に貢献しています。
ムスティエ 焼きをご購入されるときには、EPV(Entreprise du Patrimoine vivant)のマークがある販売元では、自然のままの粘土を使い伝統的な製法を守っている、と認められているので参考になさってはいかがでしょう。
ムスティエ焼きの特徴
ムスティエ 焼きの特徴として、とても美しいエナメルの輝きがあげられます。これはクレリッシーの秘伝のエナメルを現在も引き継ぎいる証拠でもあります。
また、装飾にもいくつかの特徴があります。歴史あるカマイユ・ブルー。
カマイユとは、単色の明暗のみで浮き彫りのような効果を持つ描き方で、17世紀から18世紀にクレリッシーの工場で作られました。青のみ一色の装飾ですが、とても美しいな仕上がりに感嘆します。
出典: Académie de Moustiers(ムスティエ焼き)
次にルイ14世の装飾工であったジャン・ベラン(Jean Bérain the Elder、1640-1711)に影響をされ、ベラン風と呼ばれる装飾。王宮の装飾工らしい豪華な装飾です。
主に装飾の中心部分には、神話の中の人物、そして完全に左右対称なアラベスク模様、女像柱、上半身や動物などが、ほとんどの場合カマイユ・ブルーで描かれています。
このベラン風装飾のムスティエ 焼きは18世紀のはじめ頃まで作られていました。
出典: Académie de Moustiers(ムスティエ焼き)
また他には、17世紀終わりからフランス革命頃まで作られた紋章の装飾。
多色装飾で3つか4つの花が左右対象に中心に描かれ、皿の縁にも連続する同じ柄が描かれた花の装飾(Fleur de Solanée)。こちらは1740年から1760年の間に多く作られました。
出典: Académie de Moustiers(ムスティエ焼き)
そして、最もユニークであるとされるグロテスク装飾。ジョゼフ・オレリ(Joseph Olérys)によって描かれた作品です。
縁は花のモチーフで飾られ、中心には小さな滑稽な人物や動物が描かれています。装飾の革命と言われたこの装飾はとても綺麗で不思議な気分にさせてくれます。
出典: Académie de Moustiers(ムスティエ焼き)
ムスティエ 焼きには他にも、まだまだ美しい装飾があります。形にも様々なものがあり、いつまでも見ていて飽きることはありません。
この美しいムスティエ 焼きの技術が今も続いているということに驚くとともに、自身でもぜひ一枚所有したい食器の一つですね。