リモージュへのアクセスと観光スポット
リモージュ(Limoges)は、フランス中部の雄大な山岳地帯オーヴェルニュ地方に隣接した、リムーザン地方の州都です。
パリ・オステルリッツ駅からは電車で約3時間。ボルドー地方からはTER(フランス国鉄SNCFが運行する地方都市間を結ぶ急行列車)で約3時間で向かうことができます。
出典: depositphotos.com (リモージュ)
自然豊かな街・リモージュは、フランス屈指の陶磁器とエマイユ(émail、七宝焼き)をはじめとした、伝統工芸の街として知られてきました。
リモージュは陶磁器生産よりはるか昔、12世紀には、金属工芸品の1つであるエマイユ(七宝焼き)の生産地として大発展を遂げます。
当時、ヨーロッパ、日本、中国、各地で独自製法のエマイユが生産され、リモージュはヨーロッパの生産中心地とも言われるほど盛んに生産されたのです。
出典: Wikipedia (リモージュ・エマイユの銅製の皿、1700年頃)
また、世界中の陶磁器マニアが訪れるスポットといえば、リモージュの中心街にほど近い「アドリアン・デュブーシェ国立博物館」(Musée national Adrien Dubouché)でしょう。
この陶磁器博物館には、リモージュ焼きはもちろん、フランス国内の陶磁器、オランダのデルフト、イギリスのウェッジウッド、東洋陶磁器まで世界中の名品が約11,000点展示されています。
また、博物館そばには、リモージュ焼きの老舗ベルナルドの工房や、ロワイヤル・リモージュの工房があり、事前予約をすればその製作工程を見学することもできます。
出典: Wikipedia (アドリアン・デュブーシェ国立博物館)
豊かな自然の恩恵を受けたリモージュの食文化にも、ぜひ注目したいところです。
リモージュのそばには、広大な牧草地が広がり、リモージュ牛の生産地として古くから有名です。現在も旧市街には中世の風情を残した、木組みの肉屋が軒を連ねています。ぜひ本場のリモージュ牛を堪能してみましょう。
また「リムーザンにはキャビアはないが、クリがある」と語られるほど、クリのブーダン(Boudin、フランス風ソーセージ)やリムーザン風サラダなど、様々なクリ料理を楽しむことができます。
出典: france.fr (リムーザン料理)
そして、リモージュといえば忘れてならないのが、「ローマ・バチカン市国」、「エルサレムの旧市街地とその城壁」と並ぶキリスト教の三大巡礼地である「サンティアゴ・デ・コンポステーラ(Santiago de Compostela)」に向かう巡礼路の1つであることです。
キリスト教の使徒・聖ヤコブが眠る、スペイン最北端の聖地ーサンティアゴ・デ・コスポステーラ。
この聖地に向かうには唯一4つの巡礼路があり、リモージュはその1つにあたります。
ヨーロッパで巡礼ブームが起きた11〜12世紀には多くの巡礼者がリモージュを渡って、この聖地を目指しました。
たくさんの巡礼者が渡ったサンテ・ティエンヌ橋(Pont Saint-Étienne)は、その素朴で郷愁ある姿を残しています。
出典: Wikipedia(サンテ・ティエンヌ橋)
また、使徒・聖ヤコブのフランス名称「サン・ジャック」はフランス語で「ホタテ貝」を意味することから、巡礼路の界隈にはホタテ貝を飾ったお店が賑わいます。ホタテ貝をつけた巡礼者を見かける事も出来るかもしれません。
出典:https://www.french-historical-paths.com/(巡礼路のホタテ貝)
リモージュと縁のある芸術家たち
リモージュ出身の最も有名なフランス人の一人といえば、19世紀フランス印象派を代表する画匠ルノワールでしょう。
出典: Wikipedia (ルノワール)
彼は、リモージュで5人兄弟の4番目に生まれます。貧しい労働者階級だった両親。ルノワールは幼少期から働き、13歳から陶磁器の絵付け職人として、早くから高い才能を見出されました。
しかし19世紀後半のヨーロッパは、イギリスから始まった産業革命の波を受け、手仕事から大量生産の時代へ、猛烈な工業化が進みます。
陶磁器界においても、機械によるプリント技術が発達し、ルノワールを始め絵付け師たちの仕事は奪われてしまいます。しかし、この経験を経て、彼は歴史を代表する画家としての道を歩み始めるのです。
また、リモージュは日本文学の名詩人・島崎藤村とも縁のある街でもあります。
出典: Wikipedia (島崎藤村)
明治、大正時代の日本は、近代文学が大きく開花し、森鴎外、永井荷風を始め多くの文化人たちがフランス文学に影響を受け、大きな憧れを抱きながら、シベリア鉄道に揺られて、遠いフランスへ渡りました。
藤村もその一人でした。大正2年(1913年)彼は渡仏を果たしますが、時代は第一次世界大戦の混乱期へ。彼は友人を頼り、このリモージュで疎開生活を送ったそうです。
自然と親しんだリモージュでの生活。彼のフランス紀行文にはその様子が残されているそうで、疎開中の自宅は今もリモージュに残されています。
フランスを代表するリモージュ焼きの美しさ
リモージュ焼きといえば、透き通るような白磁に、クラシックで優雅な絵付けがほどこされた気品あるデザインが特徴的です。
出典: Wikipedia (初期のリモージュ磁器)
このリモージュ磁器の誕生は1765年〜1770年頃と言われ、リモージュ最古の窯「ロワイヤル・リモージュ(Royal Limoges)」をはじめ、「ベルナルド(Bernardaud)」、「アビランド(Haviland)」、「レイノー(Raynaud)」、「ロールセリニャック(Laure Selignac)」などフランスを誇る老舗窯が、今もなお多数存在しています。
特にリモージュ最古の窯である「ロワイヤル・リモージュ(Royal Limoges)」は王立セーヴル窯とその巧みな技術を競い合った歴史もあります。
さて、ではこのリモージュでなぜ磁器生産が盛況したのでしょう。
18世紀ヨーロッパでは、硬くて丈夫な中国磁器がもたらされ、空前のブームを巻き起こしており、ドイツのマイセンは、1709年にいち早くその秘伝の製法を独自分析し、欧州の磁器生産を独占していました。
しかし、その秘伝の製法に欠かせないと言われた原料・カオリンがフランスにはありませんでした。よって、フランスは別の手法で陶磁器技術の向上に励みます。
しかし、ドイツ・マイセンからやや遅れて、1767年フランス陶磁器界に大きな転機が起こります。
リモージュに住む薬剤師ジャン=パティスト ダルネ(Jean-Baptiste Darnet、1722-1781)の妻が、洗濯用に使用していた白い土。それこそがフランスが探し続けてきた原料・カオリンだったのです。
この大発見を機に、リモージュでの磁器生産は爆発的に増加。老舗一級ブランドを数々と創出して行ったのです。
出典: art.rmngp.fr (ジャン=パティスト ダルネ)
そして21世紀の現在。
フランスを代表する三つ星レストランの一流シェフ達がこぞってリモージュ焼きを使用しています。また、日本の老舗お茶メーカーとリモージュ焼きのコラボレーションによる茶器が発表されるなど、リモージュ焼きは、長い歴史を経た今もなお、国境を越えて広く愛され続けているのです。
そんな豊かな自然の中に、色鮮やかな歴史の側面を持ったリモージュ。ぜひゆっくりと訪れてみてください。