知る人ぞ知る!長い伝統を誇るドイツのブランド
ドイツの窯と言えば、マイセン(Meissen)をまず思い浮かべる方が多いでしょう。
しかし、マイセン以外には思い浮かばない方もいらっしゃるかもしれませんね。実はドイツには、日本ではまだ知名度が高いとは言えない窯がたくさんあるのです。
今回は、マイセンに次いでドイツで2番目に歴史のある「ヘキスト陶磁器工房(Höchster Porzellan-Manufaktur)」という窯を紹介します。
注文を受けてから職人が下絵なしで絵付けするという、由緒ある窯なのです。
出典:Höchster Porzellan-Manufaktur GmbH (18世紀の磁器製作所)
270年以上に渡り、伝統を今に伝え続ける 「幻の名窯」
ヘキスト陶磁器工房(以下、ヘキストと略)は、ドイツが生んだ偉大な詩人ゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe、1749-1832)が生まれた国際都市フランクフルト(Frankfurt)にその工房を構えています。
社名はフランクフルトにある「ヘキスト」という街に由来し、現在も歴史と伝統を守り続けています。
ヘキストは1710年のマイセン誕生に続いて、マインツ選帝侯(大司教)の保護のもと陶磁器工房として1746年に産声を上げました。マイセンはヨーロッパで最も歴史のある窯の1つとして有名ですが、ヘキストはドイツで2番目に古い窯なのです。
そして、「選帝侯」とは神聖ローマ帝国の皇帝を選挙で選ぶ権利をもったドイツ地方の有力諸侯であり、なかでもマインツ選帝侯(大司教)はその筆頭格として、皇帝を補佐する立場だったんです。すごい名門なんですね。
ちなみに、ヘキストのほか、マイセン、ベルリン、ニンフェンブルク、フュルステンベルク、フランケンタール、ルドヴィヒスブルクを合わせて、ドイツの7大名窯などと呼ばれたりもします。
出典: :Höchster Porzellan-Manufaktur GmbH (マインツ大司教ヨハン・カール・フォン・オスタイン)
ヘキストのロゴは、マインツ選帝侯の家紋である「車軸」をモチーフにしており、現在もなお、変わらずヘキストの高品質の象徴として使用されています。
出典:Höchster Porzellan-Manufaktur GmbH
しかし、ヘキストはその後、紆余曲折の運命をたどります。
実はヘキスト誕生からちょうど50年後の1796年に、王族・貴族制を倒す所からはじまったフランス革命、その後に台頭したナポレオンにより引き起こされた戦争のあおりを受け、フランスの皇室窯であったセーヴルなど他の窯と同様に、閉鎖を余儀なくされるのです。
しかし、この短い運命を知っていたかのように、ヘキストは次々と最高品質の食器や花瓶、磁器人形を生み出していきます。
ヘキストの代表作である「忘れな草」もこの頃に誕生した逸品です。 この50年間に生み出された陶磁器は、現在、ヘキスト陶磁器ミュージアム(Höchst Porcelain Museum)で見ることができます。
食器を始め、人形などその数1000以上の陶磁器が展示してあるとのことで、陶磁器好きなら一度は訪れてみたい場所ですね。
その後、長い時を経て、1946年に再び、フランクフルトの地で息を吹き返します。再興後も、18世紀当時の伝統的な製法や絵付け技法を守り続けています。
職人による絵付けは、下絵なしと言うから驚きです。一つひとつ丁寧に繊細な絵付けが施され、大量生産ができないことも「幻の名窯」と言われる所以だそう。
さらに、近年は伝統的な絵柄だけでなく、現代的なデザインも取り入れ、ドイツの国際的デザイン・アワードである「デザイン・プラス賞」を受賞するなど、活躍の場を広げています。
出典:Höchster Porzellan-Manufaktur GmbH(Design plus award)
18世紀に最も人気だった絵柄を今に伝え続けるシリーズの数々
1)まず紹介したいのは、伝統的な絵柄のシリーズ
どれも繊細で、手書きであることがよくわかる食器の数々にため息がもれます。
先も述べたように、ヘキストの代表作である「忘れな草(Historischer Vergissmeinnicht Streuer)」も佇まいが美しいのですが、
出典:Höchster Porzellan-Manufaktur GmbH(Kollektionen Historischer Vergissmeinnicht Streuer)
他にもドイツにいる鳥をモチーフにしたもの(Bunte Heimische Vögel)
出典:Höchster Porzellan-Manufaktur GmbH(Kollektionen Bunte Heimische Vögel)
初夏の陽ざしと草花の息吹が感じられるもの(Frühsommer)
出典:Höchster Porzellan-Manufaktur GmbH(Kollektionen Frühsommer)
「カラフルな花」という意味を持つもの(Bunte Blume)など、見ていて飽きないものばかりです。
出典:Höchster Porzellan-Manufaktur GmbH(Kollektionen Bunte Blume)
2)セットで揃えるなら、「アマリエンブルク」
ドイツ・ミュンヘンのニンフェンブルク城内の離宮「アマリエンブルク(Amalienburg)」の名を冠した食器シリーズ。これも18世紀に生まれた伝統的な絵柄です。
出典:Höchster Porzellan-Manufaktur GmbH(Kollektionen Amalienburg)
このシリーズはキク科の花をモチーフにしたものです。こんな繊細な絵柄で丁寧に作られているのに、公式ホームページには食洗機OK、普段使いにぴったりと書いてあるから驚きです。
出典:Höchster Porzellan-Manufaktur GmbH(Strohblumen)
3)日本人なら見逃せない!和食にも不思議となじむシリーズ「キョウト」
上記のアマリエンブルクと少し似て非なるシリーズ「キョウト」。そう、日本の古都「京都」からとったこのシリーズは、18世紀から続く絵柄をモダンにアレンジした逸品。
こちらも、アマリエンブルク同様、食洗機OKで普段使いに持ってこいとのことです。
出典:Höchster Porzellan-Manufaktur GmbH(Kyoto)
4)こんな表情がおだやかで愛嬌のある磁器人形なら、手元に置いて眺めていたい
ヘキストの代表作にもう一つ、磁器人形があります。「トルコの楽隊」というシリーズです。表情が豊かだけど自然で、楽隊の音楽が聞こえてきそうな雰囲気ですね。
出典:Höchster Porzellan-Manufaktur GmbH(Türkischen Kapelle)
いかがでしたか?
マイセンもいいけれど、ヘキストも歴史と伝統を守り続けている素晴らしい窯の1つです。
日本では、なかなかお目にかかれないようですが、ミュージアムや公式サイトをぜひのぞいてみてください。