はじまりはコーヒーハウス「トムの店」
世界中で人気を誇る紅茶ブランド、トワイニング。英国の紅茶の歴史はトワイニングと共にあるといわれるほど、実は大変歴史ある伝統的なブランドでもあります。
その創設者であるトーマス・トワイニング(1675-1741)はイングランド南西部にあるグロスターシャーの出身といわれ、もともとトワイニング家は毛織物を扱う業者だったのだそうです。
出典:Wikipedia(トーマス・トワイニング)
トーマスは9歳の頃に家族と共にロンドンへ移っていますが、仕事は父の仕事を継いだ後、これを辞めて東インド会社で働くようになります。
東インド会社といえば、当時最も大きな輸出入の業者であり、異国のお茶など、珍しい生産物もたくさん扱っていました。
トーマスはこの経験を通して様々な種類の茶の知識を身に着けたようですが、これが後の人生に大きな成功をもたらすことになります。
その成功のはじまりは、東インド会社を離れ、ロンドンのストランド地区にコーヒーハウス「トムの店(Tom's Coffee House)」をオープンさせたことでした。
トーマスだから、略してトム。当時は、友人たちからはトムと呼ばれてたんでしょうかね。
競争の激しいコーヒーハウス、、、そこでトーマスは?
今でこそ紅茶の国というイメージが強い英国ですが、17世紀当時の飲み物の主流はコーヒーであり、ロンドンには「トムの店」以外にも2000軒以上のコーヒーハウスがあったと言われています。
コーヒーハウスとは、単にコーヒーを飲むだけでなく、新聞や雑誌が読め、多くの紳士たちが集う店のことで、情報収集や社交の場として栄えていました。
幸いにもトーマスの店は、他の店より少し離れたところにあったこと、この地域に1666年にロンドンを襲った「ロンドン大火」の後に貴族が多く住んでいたため富裕層の顧客を獲得できたこと、が重な繁盛していたようですが、やはり厳しい競争を勝ち抜くには、他の店にはない持ち味を用意しなくてはなりません。
そこで、トーマスが思いついたのは、当時はまだ珍しかった紅茶をメニューに加えることでした。
出典:depositphotos.com(トワイニングスの紅茶)
東インド会社で働くうちに学んだ貿易商としての知識や、茶の知識がここで活かせることに気が付いたのです。
トーマスの予見は見事に当たり、上質な紅茶を出す「トムの店」はたちまち紳士たちの間で評判になりました。
ちなみに、当時の貴重な資料として、トーマスの商売にまつわる台帳が残されているといいますが、それによると、売れたコーヒーと紅茶の総重量を比較したとき、重量は大差ないにもかかわらず、紅茶の売上金額はコーヒーの2倍以上だったのだそう!
つまり、紅茶はコーヒーの2倍以上の価格で売れていたわけで、トーマスがこれだ!と思ったのもうなずけますね。
また、日本からの旅行者を常に悩ませる「ティップ」の習慣。これが始まったのも、トーマスのコーヒーハウスだったとも言われています。
もともとは、急いでいるひとが、お店のドア近くの「T.I.P」(=To Insure Promptness、迅速なサービスを保証します)と書かれた木箱にコインを入れ、この音でもって優先的にサービスを受けるという仕組みだったそうです。
出典:time-travel britain.com(TIP Box)
紅茶の販売をスタートしたり、チップの仕組みを考えてみたり、トーマス・トワイニングは、なかなかのアイデアマンであったようですね。
トワイニングの前身「ゴールデン・ライオン」誕生!
コーヒーの陰にありながらも、注目が集まりつつあった紅茶の新しい可能性を見出したトーマスは、さっそく紅茶の事業を拡大するため、「トムの店」の隣の土地を買い取り、「ゴールデン・ライオン」という紅茶専門店をオープンさせます。
これは、世界初の紅茶専門店であり、今もなお愛され続ける紅茶ブランド、トワイニングの前身というべき店ですが、トーマスがこのゴールデン・ライオンをオープンさせたまさにその場所、「Strand 216」には、現在も名前をトワイニングと改めたお店が営業中!
出典:Wikipedia(Strand 216)
そんな長い歴史を歩むことになるゴールデン・ライオンは、紅茶を味わえるだけでなく、茶葉の量り売りもしていたため、斬新で画期的なお店として繁盛していくこととなりますが、人気の秘密はほかにもありました。
それは、コーヒーハウスといえば男性限定が当たり前であった時代に、ゴールデン・ライオンでは女性の来店も歓迎したのです。
これによって女性たちをも喜ばせ、ゴールデン・ライオンの人気はますます不動のものとなっていきました。
創業300年以上!世界的ブランド「トワイニング」へ
ゴールデン・ライオンの成功により、トーマスは店名を、自らの家名「トワイニング」に改めることとしましたが、ストランド216で今も営業中のお店には、金色に塗られたライオンの装飾を見ることができます。
その両脇には二人の中国人の商人を模した装飾も見られますが、これは、当時お茶が中国から輸入されたものであったことに由来するそうです。
出典:Wikipedia(Golden Lion)
ちなみに、ゴールデン・ライオンがオープンした当時はまだ住所が無かった頃で、お店の付近に目立つ目印を設置する必要があったたため、トーマスは冠を頭に載せた百獣の王ライオンを金色に塗ったデザインの看板を使用したといいます。
名称がトワイニングに変わった今も、その名残として金色のライオンの装飾が掲げられているわけですが、これはトーマスの孫である4代目リチャード・トワイニング(1784年に茶の減税法を成立させるのに貢献した人物としても有名です)によって設置されたといいます。
ゴールデン・ライオンはトワイニングのシンボルというだけでなく、受け継がれる伝統や歴史の象徴でもあるということでしょうね!
トーマス・トワイニング亡き後も発展を続けたトワイニングは、1837年に当時の君主ヴィクトリア女王から王室御用達の称号を与えられることとなり、その栄誉ある歴史と人気は現在も未来へと受け継がれ続けているのです。