セーヴルへのアクセスと観光スポット
パリ西部近郊、セーヌ川に面したところに位置するセーヴル(Sèvres)は、イル=ド=フランス地域圏オー=ド=セーヌ県に属し、現在は閑静な住宅街として人気のある地域です。
そしてここには約300年の歴史を誇るフランス王立セーヴル窯があり、今もなお、フランス国家機関や、国の贈答品向けに製造が続けられています。
さて、そんなセーヴルで一番の見所は、やはり国立陶磁器美術館(Musée national de Céramique)でしょう 。
メトロ9号線ポン・ド・セーヴル(Pont de Sèvres)駅下車、徒歩10分内にある国立美術館には、フランス随一の収蔵数を誇るセーヴル焼きが約2千点、世界中の陶磁器が約5万点も収蔵されており、陶磁器ファンを唸らせる見応えある展示会が年間通じて開催されています。
出典:Cité de la céramique(国立陶磁器美術館)
また美術館そばには、ヴェルサイユ宮殿の設計を担当した名宮廷庭師・ルノートルが設計したサン・クルー公園があります。気候の良い季節に美しい花園を散歩するのもお勧めコースです。
出典:depositphotos.com(サン・クルー公園)
セーヴル陶磁器の立役者・ルイ15世の愛妾ポンパドゥール夫人
セーヴル窯の歴史は、パリ東部ヴァンセンヌ窯にあると言われています。
1740年頃に設立されたヴァンセンヌ窯は、工房面積が狭く、1756年セーヴルに移転され、1759年フランス王立窯に指定されました。それを指示し、取り仕切ったのがルイ15世の愛妾ポンパドゥール夫人(1721-1764年)です。
出典:Wikipedia(ポンパドゥール夫人)
銀行家の娘として生まれたジャンヌ・アントワネット・ポワソン。幼少期から彼女の美貌は群を抜いていました。
9歳の時にある占い師から「彼女は国王の心を掴むでしょう」と言われ、母親は愛人に擁護をお願いし、彼女に演劇、舞踏、文学などあらゆる分野の教育を徹底的に授けました。
そして彼女は演舞の腕はもちろん、モンテスキューと文学を語り、ヴォルテールと哲学を論じるほど、まさに才色兼備な女性へと成長していきました。
そして20歳で社交界入りを果たした後、才色兼備な彼女の魅力はたちまちルイ15世を虜にし、「ポンパドゥール夫人」として王の愛妾に選ばれたのです。
しかし、表向きは豪華絢爛で誰もがあこがれるヴェルサイユ宮殿での暮らしは、もともと体が弱かった彼女を疲弊させていきます。
王の愛妾という立場を新しい女性に取られるかもしれないという危機感。宮廷に住む貴族同士の対立。彼女は体調不良を度々起こすようになります。
出典:Wikipedia(ルイ15世)
しかし王の愛妾として、政治に関心の薄かったルイ15世に代わって政治、外交、そして芸術分野の発展のため尽力します。
また、宮廷内のファッションリーダーだった彼女。実は女性のヘアスタイル「ポンパドゥール」は彼女のエレガントなヘアスタイルから由来しているそうです。
さて、そんなポンパドゥール夫人は、自身が住むヴェルサイユ宮殿そばにセーヴル窯を移し、選りすぐりの技術者たちを集めました。
彼女は自ら定期的に工場に通い、自身のアイデアを伝えたり、生産工程の改善にも貢献したそうです。そして、セーヴル窯はフランス陶磁器界を席巻していくのです。
しかし彼女の健康不良は深刻化し、43歳という若さでこの世を去ります。死の直前まで、陶磁器をはじめとしたフランス芸術繁栄に邁進したポンパドゥール夫人。
平民出身だった一人の女性の、まさに情熱と才気が、最も華やかなフランス芸術の時代を作り上げたのです。
300年の歴史を誇るフランス王立セーヴル焼き
1756年セーヴル窯が建設され、ヴァンセンヌ、シャンティイなどフランス各地域の名窯から、選りすぐりの技術者、絵付け師、化学者達が集められました。
そして彼らの卓越した技術力と絶え間ない研究によって、薄くて強い軟質磁器と、独特のカラーリングが数々開発されていきました。
工房内にあるマゴ(Magot)と呼ばれる貯蔵室には約300年の歴史の中で開発されてきた、9万点にも及ぶセーヴル陶磁器の型が保管されているそうです。
セーヴル焼きの特徴として特に印象的なのが、独特なカラーでしょう。
ヴァンセンヌ窯時代から開発が始まった、様々な種類の秘伝のブルーカラー。特に、独特な深みがある濃紺色「ブリュ・ド・ロワ(Blue de roi、王の青)」は今も尚、王立セーヴル焼きのシンボルとして守られています。
出典:Cité de la céramique(ブリュ・ド・ロワ)
またポンパドール夫人の尽力を讃え、彼女が生前愛したピンク色を使った「ポンパドゥール・ピンク(Les rose Pompadour)」もこの時代に開発され夫人が愛用したと言われています。
鮮やかなピンク色に金色のモチーフは、艶やかなロココ様式のスタイルを反映しています。
このように、セーヴル焼きのカラーとデザインは、華やかで、洗練されたフランス文化をまさに象徴しているようです。
出典:Paris Musee(ポンパドゥール・ピンク)
そして、このような独自の製法とデザインを守り抜いていくために、セーヴル焼きの作品裏面には、作品で使用したペーストの種類、青色の素塗りをした職人のサイン、金の装飾をした絵付け師のサイン、完成年代のシンボルマークなどが彫り込まれており、模倣品が決して製造されないよう徹底的に管理され、年間製造量は指定されているそうです。
このように一人の女性の尽力と、一級の職人芸によって、約300年経った今も守られ発展を続けるセーヴル焼き。
フランス芸術が栄華を極めた歴史背景とともに、ぜひセーヴル焼きの世界をお楽しみください。