出典:ロワイヤルリモージュ本国公式サイト(ボタニーク)
「子どものころ、ベルサイユのばらを読んでお姫様に憧れた」「マリー・アントワネットなどフランスの貴婦人が好き」、そんな方もいらっしゃるかもしれません。
フランス宮廷の世界がお好きな方、マリー・アントワネットのために作られた食器の「復刻版」が手に入るってご存じですか?
「ロワイヤル・リモージュ」というフランスの王室御用達窯は、歴史と伝統に培われた高い技術のもと、世界各国の美術館に展示されている作品の復刻を許された窯なのです!
フランスの文化的遺産といっても過言ではない傑作デザインが手に入るとは、夢のような話ですね。
今回は「ロワイヤル・リモージュ」の歴史や、人気の食器セットそれぞれにまつわるエピソードなどを紹介します。
マリー・アントワネット好きな方だけでなく、バラなどお花モチーフのラグジュアリーな食器が好きな方も必見です!
セーヴルと並び、フランスで最も歴史のある1737年創業の王室御用達窯
日本では「ロワイヤル・リモージュ」と呼ばれるこの窯は、正式名称を「アンシェンヌ・マニュファクトゥア・ロワイヤル・ド・リモージュ(Ancienne Manufacture Royale de Limoges)」と言います。
「Ancienne manufacture」とは英語でいうと「ancient manufacture」で「歴史ある、古い工房」という意味です。1737年に設立されたロワイヤル・リモージュの歴史はその名前のとおり、「フランスの磁器の歴史」でもあると言われています。
リモージュは、現在でこそベルナルド、レイノー、ロールセリニャックなど多くの高級ブランドを擁す陶磁器の街として有名ですが、中でもロワイヤル・リモージュは、1768年にリモージュの街で発見された上質なカオリンを用いた初めての窯であり、バックスタンプ(食器の裏面の刻印)に「リモージュ」との印を付けることを許された最初の窯でもあるからでしょう。
ロワイヤル・リモージュは1774年、アルトワ伯爵(ルイ16世の弟で、のちのシャルル10世)の庇護を受け、王室御用達窯となりました。さらに、1784年には同じ王室御用達窯セーヴルの工房の一部となります。
なぜなら、セーヴルには磁器を作るために必要な原材料の供給源の近くに工房を設置したいという思惑があったからだそう。磁器の製作には上質なカオリンだけでなく、高い温度で焼成するための木材、清らかな水なども必要で、リモージュにはそれらがすべてそろっていたのです。
世界の美術館に展示されている「傑作」を、細かいところまで再現し復刻している
※上記は、「マリー・アントワネットの胸から型をとった」なんて噂もあった乳房型のボウル。オリジナル作品は、フランス・セーヴル国立陶磁器美術館にあります。
創業より280年以上、ロワイヤル・リモージュは手仕事による型・絵付けの高い技術を継承しており、その卓越した技術を活用し、現在、世界各国の美術館に展示されている18~19世紀の作品を見事なレベルで復刻しています。
オリジナル作品を所有する美術館との密接な連携のもとで作品を復刻しているという点でも世界から注目を集めています。
さらに1986年に同じフランス・リモージュにある高級食器ブランド「ベルナルド」の傘下に入ったことも復刻の製作によい影響を与えているのでしょう。
ところで、「復刻版」というとどのようなイメージを持ちますか?
「美術館に展示されている逸品が手に入る」などのポジティブな印象を持つ方もいれば、「アンティークならではの威厳や雰囲気はない?」など、ネガティブな印象をもつ方もいらっしゃるかもしれませんね。
しかし、「ロワイヤル・リモージュ」の復刻版に関しては、よい点がたくさんあると思いますよ。
まず第一に、復刻の品質。上記でも説明したように、世界の美術館と連携して作品の復刻を行っているので、その再現性もクオリティも高いことは間違いありません。
2つめとしてあげられるのは、公式な復刻版という安心感。復刻版を作ることを許されたロワイヤル・リモージュ製のものだから、という安心という点も大きいでしょう。アンティーク市場ではセーヴルなどの高級磁器の偽物が多く出回っています。しかし、公式な復刻版であれば、偽物をつかむ心配はありません。
3つめとして考えられるのは、長く使って楽しめること。至極当たり前のことですが、復刻版は新品なので、ヒビや欠け、スレなどアンティーク作品にみられるものへの心配はなく、長く楽しむことができます。復刻版とはいえ、決して安くはない買い物だから、一生大切にしたいですよね。
以上、よいところを3つ挙げましたが、私が考える4番目のメリットは、「その昔、セーヴルで作られた食器と同じデザインのものが手に入ること」!
フランスの国有窯であり、フランスの国のためにしか生産しないセーヴルの食器は、現在、ほぼ入手不可能です。しかし、かつてセーヴルで作られたデザインやシェイプと同じものが今、手に入る・・・こんな魅力的なことはないなと、個人的には思うのです。
マリー・アントワネットが使った食器や、ルイ15世がオーダーした食器など、激動の時代を生き抜いてきたデザインの食器って興味がわきますよね。
あなたはどれがお好き?18世紀のロココ様式を彷彿とさせる「女性的なデザインシリーズ」5選
長らくおまたせしました!今回は「ロワイヤル・リモージュ」の親会社である「ベルナルド」の公式ホームページ(英語版)に掲載されている食器シリーズ8選をすべてご紹介します。
「ベルナルド」の日本語版ホームページには、一部商品しか掲載されていませんので、ご注意くださいね。
1)王妃が愛した真珠とヤグルマギクがあしらわれた「マリー・アントワネット」(Marie-Antoinette)
これは1782年1月2日、王妃マリー・アントワネットのためにベルサイユ宮殿に納められたセーヴル窯製食器セットを復刻したもの。
マリー・アントワネットというと、豪華絢爛なものが好きなイメージをもつ方もいらっしゃるかもしれませんが、実際は自然や野の花を愛する王妃だったと言われています。
その証拠に、宮廷の窮屈な生活から逃れるために、ベルサイユ宮殿の離宮であるプチ・トリアノン宮の庭園をイギリス式庭園に変え、さらに田舎の村里を模した小さな集落(下記写真)を作ってしまいました。
そんな生活の中で、大好きなヤグルマギクなどの野の花を摘み、ブーケをこしらえて余暇を過ごしていたと言います。
出典:Wikipedia(プチ・トリアノン宮殿)
そんなヤグルマギクの素朴さとは対照的に、まるで本物のネックレスかと見まがう、整然と並んだ真珠。
ノーブルな雰囲気を醸し出す緑色を背景にした真珠の2つの列には金色のレースが配置され、さらに輝きを増しています。この食器セットは「真珠とヤグルマギク」パターンの流行を巻き起こしました。
オリジナルの作品は現在、フランスのベルサイユ宮殿、もしくはルーブル美術館のどちらかでしか見ることができない、貴重な逸品です。
2)ヤグルマギクとバラの対照的な色彩が上品な「王家のゴブレット」(Le Gobelet du Roy)
「王家のゴブレット(Le Gobelet du Roy)」は、1783年にマリー・アントワネット妃の夫であるルイ16世がセーヴル窯にオーダーしたもの。
この上品なシリーズは、深紅のリボンにギンバイカという植物の葉とヤグルマギクが絡み合ったデザインです。それぞれのピースの中央には、ヤグルマギクのリースがピンクのバラを囲んでいて、さらに高貴な印象を与えています。
マリー・アントワネットが好んだヤグルマギクとバラの両方があしらわれていて、ファンの方は見逃せない逸品ですね。
『マリー・アントワネットの食卓』という本によると、この「王家のゴブレット」の食器でマリー・アントワネットの好物だった「フロマージュ・グラッセ(※)」というデザートが供されたそう。こんな素晴らしい食器でデザートを食べたら、美味しさが何倍も増しますね。
※フロマージュ・グラッセ=クリームを果物やコーヒーなどで味付けして凍らせたもの。卵が入るレシピもある。
3)紅色のバラと金彩がラグジュアリーな雰囲気を醸し出す「ルイ15世」(Louis XV)
この「ルイ15世(Louis XV)」シリーズは、時はマリー・アントワネットの時代から少しさかのぼる1757年に、ルイ15世がとても愛した邸宅フォンテーヌブロー宮殿のためにセーヴルに作らせたもの。
工房の記録によると、この食器はルイ15世の日常の食卓を彩っていたそう。
ルイ15世の治世は、ポンパドゥール夫人が愛したロココ調が流行していましたが、このシリーズもロココ・スタイル。
さざ波のようなシェイプに紅色のバラと繊細な金彩がほどこされて美しく調和し、中央に位置するモノグラムが王家らしい雰囲気を醸し出していますね。
一見するととてもシンプルなデザインのように見えますが、当時この紅色はとても珍しく、コストがかかったそうです。
オリジナルのピースは、フランスのフォンテーヌブロー宮殿に残っています。
4)「王妃のために」という意味をもつ「ア・ラ・レーヌ」(A la Reine)
出典:ロワイヤルリモージュ本国公式サイト(ア・ラ・レーヌ)
この「ア・ラ・レーヌ(A la Reine)」シリーズは、1784年に発表されたもの。
花柄は18世紀後半のルイ16世時代によく描かれたモチーフで、このシリーズにはバラ、チューリップ、カーネーション、デイジー(ひなぎく)、スイカヅラなどがさまざまな種類の花があしらわれています。
また、花がつややかに、そして自然に生き生きと描かれているのもこの時期によく見られる意匠です。縁にほどこされたブルーのラインは金彩のデザインをさらに引き立てています。
オリジナルピースは世界の主要な美術館にもありますが、多くはフランス・リモージュにあるアドリアン・デュブーシェ国立博物館が所有しています。
※個人的には、なぜこのシリーズが「王妃のために」という名称なのかその由来が気になります。引き続き、調査して、わかったら更新します!
5)愛らしいピンクの小花がちりばめられた「ロズレ」(Roseraie)
この「ロズレ(Roseraie)」シリーズは、プロヴァンス伯(ルイ16世の弟で、のちのルイ18世)の庇護を受けたクリニャンクール窯でデザインされたもの。
クリニャンクール窯は高度な技術と洗練されたデザインを兼ね備えた窯でしたが、フランス革命の波にもまれ、18世紀の終わりとともにその歴史に幕を閉じました。
「ロズレ」シリーズのオリジナル作品はフランス・パリのモンマルトル博物館でご覧になれます。
※「ロズレ」とはバラ園のことを指すそうなのですが、どうみてもこのピンクの花、バラではありませんよね。「ア・ラ・レーヌ」と同じく、個人的には、なぜこのシリーズが「ロズレ」という名称なのか由来が気になります。こちらも引き続き、調査して、わかったら更新します!
女性的なデザインだけでなく、キリリとした「アンピール様式」の食器も3種類!
フランス革命後の18世紀後半から19世紀にかけては、男性的なデザインである「アンピール様式(帝政様式)」の作品が作られました。
アンピールとは、英語の「empire」をフランス語読みしたもので、皇帝ナポレオンが好んだことからそう呼ばれています。金彩などを使い、まばゆく力強い「新古典主義」の作風が特徴です。
ロワイヤル・リモージュでも3種類、「アンピール様式」のシリーズを復刻していますが、アンピール様式の食器は、それ以前に作られた食器に比べて色やデザインだけでなく、そのシェイプも異なります。
例えば、ここまで紹介した5つのシリーズのティーポットの丸みを帯びたシルエットと、これから紹介する3つのティーポットのシルエットはまるで違いますよ。
絵柄や色だけでなく、シェイプにも注目すると違いがわかって興味深いので、ぜひ比べてみてください。
1)世界各地の珍しい鳥のスケッチをモチーフにした「王の庭園」(Jardin du Roi)
これまで見てきた食器の色やデザインとはうって変わった雰囲気ですね。
このシリーズは1793年にセーヴル窯で作られた「王の庭園(Jardin du Roi)」という食器セットです。
この食器シリーズにはさまざまな種類の鳥が描かれていますが、これらの絵は博物学者であり、数学者、植物学者でもあったビュフォン伯(ジョルジュ・ルイ・ルクレール・ビュフォン)が書いた「鳥類の自然誌」という本の鳥のイラストにインスパイヤされたもの。
出典: https://auction.catawiki.com/ (「鳥類の自然誌」の一部)
ビュフォン伯は、王の自然史コレクションの管財人として、生涯を自然史研究に捧げました。彼が監修した「博物誌」はフランスの科学者にとって大変貴重な財産となっています。
この食器シリーズも多種多様な鳥を描いており、まるで鳥の百科事典のようです。
オリジナルの作品は、フランスのモンバールという街にあるビュフォン博物館に展示されています。
2)王がテュイルリー宮殿で使うために注文した、格式高い「エリゼ」(Elysée)
この「エリゼ(Elysée)」シリーズは、フランス革命、そしてナポレオンの失脚後に、フランス国王となったルイ・フィリップ王(1773-1850)がテュイルリー宮殿で個人的に使うためにセーヴル窯に注文した食器セット。
出典:Wikipedia(テュイルリー宮殿、1850年)
※1870年パリコミューンの鎮圧の際に焼失し、現在は、テュイルリー公園
というのも、それまでの絶対王政を否定し立憲君主制を採用して、「フランスの王」(roi de France)ではなく「フランス人の王」(roi des Français)と称したルイ・フィリップ王は、歴代の王が受け継いできた食器を使うのではなく、すべて一新したかったそう。
しかし、王の邸宅の食器セットを一新するということは、莫大な量の食器を作ることを意味し、セーヴルにとってはかつてないほどの大口注文。
どうやって高い品質の食器を大量に早く生産するか、頭を悩ませたセーヴルはこれがきっかけとなり、技術革新を進めたと言います。この時代に開発された技術の中で、今なお活用している技術もあるそうです。
このエリゼシリーズも「アンピール様式」のシェイプ。例えば、古代のオイルランプを思い起こさせるグレービーソースを入れる食器や
フランスのアンティーク(この時代よりさらに100年以上古い時代)にインスピレーションを得たクリーム入れなどクラシカルなスタイルが特徴的です。
淡いブルーをバックに光沢のある金色でシュロの葉が描かれたデザインは、色のコントラストが美しいですね。
オリジナルの作品は、フランスにあるセーヴル国立陶磁器美術館に置かれています。
3)百科事典のように幅広い種類の花をリアルに描いた「ボタニーク」(Botanique)
この「ボタニーク(Botanique)」シリーズには興味深いエピソードがあります。1829年5月5日、自身を「Mr. Schaumbourg」と名乗る男性が花のリースをほどこした食器セットをセーヴル窯にオーダーしました。
しかし、オーダーしたのは実は、後に第3代ドイツ皇帝となる、ただし、当時はまだ皇太子だったヴィルヘルム2世(ヘッセン選帝候、1859-1941年)。身分を隠して60人用の食器セットをオーダーしたのでした。
出典:Wikipedia(ヴィルヘルム2世)
このセットはセーヴル窯が作ったシリーズの中でも最も数が多く、566ピースからなる壮大なセット。
最後のピースが完成して届けられたのは、オーダーから2年半が経とうとする1831年の10月でした。職人たちがこのシリーズの製作に専念してもなんと2年以上の歳月を必要としたそうです。
このシリーズは、絵付師の花々のスケッチにヒントを得て製作されました。ロイヤル・コペンハーゲンで作られた「フローラ・ダニカ」のように、花の百科事典さながらの細やかさと多種類の花が描かれ、それぞれの花の名称はプレートの裏に刻印されています。
18世紀に流行した花の描き方とは違い、19世紀は花の特徴をより強調し、よりリアルに表現しているところが特徴です。
このシリーズのオリジナルピースはドイツのフルダという街の近くにある「Fasanerie城」の美術館に展示してあります。ロワイヤル・リモージュは美術館と連携し、このオリジナルのセットの中でも最も美しいものを選んで、復刻元としています。
まだまだあります!1客でも堂々たる存在感を放つ「カップ&ソーサー」10選
ロワイヤル・リモージュには、これまで紹介した食器セットのほかに「カップ&ソーサー」も豊富にあります。その数なんと32種類!
今回はその中から人気のある10個にしぼり、「歴史上の人物に関係が深いもの」「花モチーフ」「天使・生物モチーフ」の3つのカテゴリ順に紹介します。
まず始めに、これから紹介するカップ&ソーサーの特徴について簡単に説明します。実は、一般的に知られるものとは少し異なるのです。
上記写真のカップのシェイプ(形)に注目してください。飲み口の広いティーカップとは違い、これはストンとした円筒形をしていますね。
このカップの形は「リトロン」と呼ばれています。「リトロン」とはラテン語の「Litra」という、液体を測る単位に由来する言葉。この「リトロン」型のカップ&ソーサーの特徴は以下の2点です。
- カップの「縦の長さ」と「横の長さ(底面の直径)」が等しいこと。縦横の長さが等しいので、スクエアカップ(正方形のカップ)とも呼ばれるそう。
- ソーサーは深さがあり、サイドが上がっていること。です。
ソーサーは現代のものと比べて、かなり深さがありますよね。
これにはきちんとした理由があります。当時はカップから直接飲むのではなく、熱い飲み物をソーサーに少量注いで飲むのがエチケットとされていたから。当時の人は熱いものを飲むのに慣れていなかったからと言われています。
今日では奇妙に思えるこのお作法は、実は20世紀初頭までよしとされていたというから驚きですね。
このリトロン型のカップとソーサーは1752年にセーヴル窯の前身のヴァンセンヌ窯に初めてお目見えしたもの。当時は紅茶やコーヒー、ホットチョコレートを飲むことが流行し始めた頃でした。
このリトロンカップは飲み口が狭いこと、また円筒形で高さがあって飲み物の香りを長く楽しめることもあって、ルイ15世の時代にはコーヒーやホットチョコレートを飲むときに使われるようになりました。
これから紹介するカップ&ソーサーはすべて、かつてセーヴル窯でデザインされたものの復刻版で、オリジナルの作品は現在、世界各地の美術館に所蔵されています。では、一つひとつの作品を見ていきましょう!
1)【歴史上の人物】マリー・アントワネットがプライベートで愛用した「王妃の花束」(BOUQUET DE LA REINE)
これは1774年、王妃マリー・アントワネットがプライベートで使うためにとセーヴル窯で作られた「王妃の花束(Bouquet de la reine)」という名前の逸品。
王妃のお気に入りのカップだったそうですよ!夜空に星がきらめく様子を思いおこさせるような、深みのある青に金色のドットが印象的です。
自然を愛する王妃にちなんでソーサーの中央には野の花のブーケが描かれ、カップとソーサーの周りには、ピンクのリボンとマートルの葉が交互にほどこされています。よく見ると、リボンと葉の間には、赤いひまわりが描かれていて、絵付けの細やかさに驚かされます。
このカップを好んだ王妃は、宮廷で仕える侍女長に感謝のしるしとしてこのカップをプレゼントしたこともあるそう。オリジナルの作品は、パリのカルナヴァレ博物館(2019年末まで工事のため閉館。2020年から再開予定)に所蔵されています。
ちなみに、下記の写真はカップとソーサーを横から見たところ。この写真からも、かなりソーサーに深さがあることがわかりますね。
2)【歴史上の人物】肖像画があしらわれた「王妃マリー・アントワネット」(A LA REINE MARIE-ANTOINETTE)
このカップとソーサーは、1773年にこちらもセーヴル窯が製作したもの。実はこのカップは、夫であるルイ16世の肖像画が描かれたカップ(下記写真)とセットなのです。
この2つのカップの特徴はもちろん、王と王妃の肖像画。カメオのようにグレートーンで描かれた横顔の肖像画は、光と影のコントラストによって顔の表情や洋服のレースの細かな部分までを表現しています。その肖像は深紅色の背景と黄金の葉のフレームによって高貴さが際立っています。
王妃のカップやソーサーには花や葉が大胆にあしらわれ、自然を愛する王妃らしさだけでなく、上品さや女性らしさも象徴しています。
ルイ16世とマリー・アントワネットの2つのカップのオリジナル作品はともにパリのカルナヴァレ博物館(2019年末まで工事のため閉館。2020年から再開予定)に所蔵されています。
3)【歴史上の人物】マリー・アントワネットとルイ16世の間の待望の王子誕生を祝うために制作された「オー・ドーファン」(AUX DAUPHINS)
このカップ&ソーサーは、ルイ16世とマリー・アントワネットの間の待望の長男であり、フランス王太子でもあるルイ・ジョゼフの誕生を祝って1781年にセーヴル窯で製作されたもの(しかし、この王子は残念ながら病気により7歳でその生涯を閉じます)。
「ドーファン(AUX DAUPHINS)」とはフランス語で「イルカ」という意味で、フランスの王太子(王位継承第1位の者)を指します。
王子の誕生を祝福するように、細やかにそして金色などをふんだんに使って鮮やかに描かれているのが特徴です。オリジナルの作品は、フランス・リモージュにあるアドリアン・デュブーシェ国立博物館に収められています。
4)【歴史上の人物】陶磁器コレクターだったロシアの女帝の名を冠した「エカテリーナ2世」(CATHERINE II DE RUSSIE)
このカップ&ソーサーは1778~1779年にセーヴル窯で製作されたもの。実はこのシリーズは18世紀にセーヴルの工房で作られたものの中でも最も高額な食器セットの1つだったとか。
筋金入りの美術品・陶磁器コレクターだったロシアのエカテリーナ2世がセーヴル窯にオーダーしたもので、この食器セットは、セーヴル窯のほぼ全職員となる44人の芸術家と職人が2年以上の歳月を費やして製作した一大プロジェクトでした。
744ピースから構成されたこの食器セットはゲスト60人分のものだったそう。オリジナルの作品は、ロシア・サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館に収蔵されています。
5)【花モチーフ】淡いブルーに真紅のバラが際立つ「ミルト・エ・ローズ」(MYRTES ET ROSES)
これは、1777年にセーヴル窯で製作されたもの。ルイ16世の時代になると、セーヴル窯はそれまで好んでいた画家ブーシェのような絵付けの画風(下記写真)から、 抽象的なモチーフを使った絵付けに移行していきます。
※上記のポンパドゥール夫人の有名な肖像画もブーシェ作です。
その後、このカップにみられるような「ヤマウズラの眼の柄(Partridge eye pattern)」が流行しました。真紅のドットの周りに小さなブルーのドットがちりばめられていて細やかな絵付けが特徴です。
また、赤いバラの花と緑のマートルの葉が自然に近いかんじで描かれているのもこの時期によく見られました。オリジナルの作品は、フランス・パリのルーブル美術館にあります。
6)【花モチーフ】色とりどりの花や果物の静物画が華やか「オー・パニエ」(AUX PANIERS)
色鮮やかな果物や花があふれんばかりにカゴに盛られている静物画を見ているようなこの作品は1780年ごろにセーヴル窯の有名な画家によって描かれました。
「パニエ」とは「カゴ」という意味。このカップの特徴は、静物画のような絵とカップとソーサー全体にほどこされた、くすんだバラ色の背景色。この絶妙な色合いが花や果物の美しさを引き立てています。オリジナルはフランス・セーヴル陶磁器美術館に所蔵されています。
7)【花モチーフ】黄金をバックに蝶が華麗に舞う「オー・パピヨン」(AUX PAPILLONS)
これは1777年にセーヴル窯で製作されたもの。「パピヨン」とは「蝶」という意味。当時、金色は限られた窯のみ使用を許されていました。
そんな中でゴールドを大胆に使用し、花や蝶で彩りを添えたこのカップは圧倒的な高級感を醸し出しています。オリジナルの作品は、フランス・セーヴル陶磁器美術館に収蔵されています。
8)【花モチーフ】まるで油絵のような「ナチュール・モルト・オー・ペッシュ」(NATURE MORTE AUX PECHES)
これは1795年ごろにセーヴル窯で作られた作品。この作品名を直訳すると「桃の静物画」。1793年~1800年ごろにセーヴル窯に勤めていた一人の画家が油彩のような静物画を磁器に書く手法を生み出し、流行しました。
それぞれのメダリオンの中には異なる絵が描かれています。オリジナルの作品は、フランス・セーヴル陶磁器美術館に所蔵されています。
9)【天使・生物モチーフ】愛あるお仕置きをされる天使がかわいらしい「ヴィーナス・コリジョン・ラムール」(VENUS CORRIGEANT L AMOUR)
天使や神話モチーフが好きな方、必見の作品です。これは1778年にセーヴル窯で製作されたもの。18世紀、人気だったヴィーナスとキューピッドが描かれています。
描かれているシーンがおもしろいですね。ヴィーナスがいたずら好きなキューピッドに「愛あるお仕置き」をされているようです。金彩職人と子どもを専門に描く画家の2人による作品です。
この画家は卓越した絵画技術により、大人気となり、セーヴル窯はルイ16世やデュバリー夫人の食器セットなどVIPからの注文を彼に任せたといいます。オリジナルはフランス・パリにある装飾芸術美術館に収められています。
10)【天使・生物モチーフ】鳥や蝶などの自然を写実的に描いた「オー・エグレット」(AUX AIGRETTES)
これは1792年にセーヴル窯で製作されたもの。「エグレット」とは「鷺(サギ)」の一種を表します。50年以上にわたってセーヴル窯で働いた、鳥を専門とした画家エヴァンスによる作品です。
鳥や蝶、花々をありのまま、自然に描いているのが特徴です。オリジナルはフランス・ソーという街にあるイル・ド・フランス美術館に所蔵されています。
いかがでしたか?
ロワイヤル・リモージュの美しさのとりこになってしまいそうですね。今回ご紹介したのはごく一部の作品。
もっと見たい方はベルナルド公式サイト(英語)のロワイヤル・リモージュのページを覗いてみてください。まだあなたが出合っていない運命の逸品が見つかるかもしれませんよ!
参考資料
「マリー・アントワネットは何を食べていたのかーヴェルサイユの食卓と生活」(原書房)