イスラム教から、キリスト教の文化圏へ
ムルシア(Murcia)は、スペイン南東部の地中海のすぐ近くに位置し、首都マドリードからは電車で4時間ほど。
多くの日本人にとって、あまり馴染みのない都市ですが、温暖な気候でスペインらしさを満喫できる都市として、夏にはロンドン・ヒースロー空港との間に直行便が飛ぶ都市です。
出典: depositphotos.com (ムルシア)
農業が盛んな地としても知られており、特にトマト、レタス、レモン、オレンジは欧州全体で消費されています。
ちなみに、街の名前は、ギンバイカ(銀梅花、英語でMyrtle)やマルベリー(桑の実)といった植物の名前から付けられたともいわれています。
出典:Wikipedia(ギンバイカの花)
ムルシアの歴史は大変古く、580年ごろには、イベリア半島の北東からこの辺りまでギリシャ人がやってきて、陶器産業を作る元となったとされています。
825年には現在の場所にムルシアという名前の都市ができており、後ウマイヤ朝のアブド・アッラフマーン2世以降は、しばらくイスラム王朝の統治下の時代が続き、この間に、陶工たちがやってきたそうです。
出典: colnect.com (アブド・アッラフマーン2世があしらわれたスペインの切手)
その後、イスラム王朝による支配が衰えるにしたがって、キリスト教国であるカスティーリャ王国とアラゴン王国の間でこの土地を巡って争いがありますが、1304年に最終的にはカスティーリャに編入されました。
もっとも、カスティーリャとアラゴンはその後、1469年に、カスティーリャ王女イサベルと、アラゴン国王フェルナンド5世の結婚によって手を結び、1492年にはキリスト教徒によるイスラム教徒からの国土回復運動(レコンキスタ)を完成させ、カルロス1世(神聖ローマ皇帝カール5世)、フェリペ2世が登場するに至って、「太陽の沈まない帝国」呼ばれる16世紀のスペイン絶頂期へと繋がっていきます。
長期滞在型の観光の街
地中海岸沿いの方では観光業も盛んで、ヨーロッパでも特に寒い地域の人が訪問する地としても知られていますが、これは日本人が考えるいわゆる「観光」とは少し違ったものです。
この地で知られる「観光」は、滞在型のもので、「casa secundaria」と呼ばれる別荘に、1週間~2週間、長い時は1か月単位で長期滞在するタイプのものとなります。
特に有名な観光イベントは、聖週間(Semana Santa、いわゆるイースター)のお祭り。
敬虔なカトリック教徒の多い国柄らしく、この期間には、キリストのはりつけ刑に至るまでの事件をあらわした大きな彫刻が、花と蝋燭にかざられて、街中を練り歩きます。
出典: meencantamurcia.es (ムルシアのイースター・フェスティバル)
また、観光名所としては、カテドラル(大聖堂)が有名です。
15世紀はじめにカスティーリャ・ゴシック様式で建てられたこの建物は、その後の建築時期によって、2階はルネサンス様式、3階はバロック様式、鐘塔はロココ様式と新古典主義といった形で、様々な美術様式が混在しています。
建物内外から楽しめる建物となっており、ムルシアに立ち寄った際には外せないスポットとなっています。
出典: depositphotos.com (ムルシアの大聖堂)
周辺には広場があり、定期的に中世市場(Mercado mediaval)が開かれています。アクセサリーや置物など、雰囲気のある品物がたくさん売られています。
そのほか、高級会員制クラブとして使われていた「レアル・カジノ」や「サルジロ美術館」など、特徴的な場所がたくさんあります。
職人の街トタナ(Totana)
ムルシアから車で30分ほど郊外へ行ったところに、職人の街といわれるトタナ(Totana)があります。
トタナは職人によるクラフトワークが非常に盛んな街で、同じく工芸が盛んなグラナダ(Granada)と競うほど、と言われています。
特に有名な工芸品は、豊かな陶土を背景とした陶器。
トタナでの陶器製造の歴史は、紀元前から始められたと言われ、遅くとも中世には現在の陶器製造の原型があるそうですが、それだけでなく、多数ある工房の多くは、いまだに工業化されておらず、家族経営で焼成から絵付けまでを行う手作業の伝統が、長い間守られているそうです。
出典: Alfareria Cerámica El Polo
また、陶器製品のなかでも特徴のある名産品としては、「ベレン」(Belen)です。
もともとは、スペイン語で「ベツレヘム」を指す言葉で、イエス・キリストがパレスチナのベツレヘムで誕生した際に、3人の賢者が祝福に訪れるシーンを、陶器などでつくられた人形とジオラマで表現するもので、現在では、スペインで展示される大半のベレンがムルシア州産だといわれています。
出典: murciaturistica.es(ベレン)
日本では日本ではクリスマスツリーが中心であまり馴染みがありませんが、ヨーロッパでのクリスマス時期には、あちらこちらで展示されています。
人形を持ち帰るのはハードルが高いという人でも、陶器のお皿やカップであれば気軽に持ち帰れるかもしれませんね。
いずれもトタナでは、日本ではちょっと買えないような大胆な柄のものも販売されています。興味のある方はぜひお土産にいかがでしょうか?