出典:ヘレンド本国公式サイト(ヴィクトリア)
洋食器と言えば、マイセンやウェッジウッドに代表される超有名ブランドだけなく、近年はアラビアなどの北欧食器やポーランド食器なども人気がありますよね。
しかし、東欧ハンガリーにも名窯があることをご存知でしたか?
その名は「ヘレンド」。
19世紀に創立され、幾多の試練を乗り越えながら、一貫して丹念な手仕事で伝統の意匠を守り続けてきた窯です。
日本には、直営店が3店、専門スタッフがいる百貨店が11店舗、その他全国の主要百貨店でも多数取り扱われています(2019年6月現在)。
実はこのヘレンド、英国王室ウィリアム王子&キャサリン妃のご結婚やジョージ王子の誕生に際し、ハンガリーからのお祝い品として選ばれた由緒ある食器ブランドなのです!
今回は、ヘレンドの歴史や特徴、人気シリーズなどを紹介します。これを読めば、あなたもきっとヘレンドの食器を実際に手に取ってみたくなりますよ。
各国の万国博覧会で次々と入賞し、英国ヴィクトリア女王の目に留まったことから、ヨーロッパでの人気が高まった
出典:ヘレンド日本公式サイト(エデン・ローズドラジェ)
ヘレンドは、ハンガリーの首都ブダペストの南西120kmほどいった、緑豊かな田園風景にある小さな「ヘレンド村」でその産声を上げました。
ナポレオン戦争が終わり、ヨーロッパに平和が戻り始めた1826年にヴィンツェ・シュティングル(Vinzenz Stingl)によって創業され、モール・フィシェル(Mór Fischer)のもとでヘレンドは発展していきました。
出典:ヘレンド本国公式サイト(モール・フィシェル)
ヘレンドが世界にその名を知らしめたのは、1851年に世界で初めて開催されたロンドンの万国博覧会でした。
それまで無名だったヘレンドは、ここで金賞を受賞します。 ヴィクトリア女王は、ヘレンドの作品を大変気に入り、ウィンザー城のためのディナーセットを注文したことから、その名声がヨーロッパの王侯貴族にもどんどん広がっていきました。
牡丹の花と蝶があしらわれたシノワズリのこのセットは女王の名にちなんで「ヴィクトリア」と名付けられ、ヘレンドの出世作として今も大切に作られています。
このように、ヘレンドと英国王室は縁が深いため、ハンガリーは英国王室にこの「ヴィクトリア」をお祝いとして贈ったのです。
出典:ヘレンド日本公式サイト(ヴィクトリア)
その後、1867年に開催されたパリ万国博覧会。
日本はこの年、初めて万国博覧会に参加して陶器や和紙を出品したことで大人気となり、ジャポニズム誕生のきっかけとなりました。
ここでヘレンドは、現在も人気シリーズである『インドの華』を出品。またも最優秀賞に輝きます。
ナポレオン3世の妃ウジェニーがこの『インドの華』のディナーセットを購入したことから、ますます名声を盤石なものとしていきます。
出典:ヘレンド日本公式サイト(インドの華)
機械化が進んだ時代にあえて逆行し、100%手仕事にこだわりぬいたことが成功に
出典:ヘレンド日本公式サイト
マイセンは1710年、リチャード・ジノリは1735年、ウェッジウッドは1759年と、名窯として知られるところが軒並み、1700年代の創業だったのに対し、ヘレンドはそれらから50~100年近く遅れた1826年の創業です。
後発の窯であったのに、今日まで高級食器ブランドとして名を馳せている背景には、当時進んでいた「近代化」と「機械化」があったようです。
出典:ヘレンド日本公式サイト
ヘレンドが誕生したころは、産業革命の波が押し寄せており、機械化や近代化が進んでいました。
そのため、ヘレンドより早く創業した名窯は、手間と時間のかかるバロックやロココなどの華やかな作品を次第に生産しなくなりました。
すると、ヨーロッパの貴族たちは、先祖に代々伝わる豪華な食器や置物が壊れたたときに修理、補充してくれる窯が少なくなり、困ってしまいます。そんな中、ヘレンドは困った貴族たちのニーズを受け、大変重宝されたのです。
当時、他国からは時代遅れとみられた手仕事を続け、名窯の模倣をして腕を磨き、オリジナルと変わらないクオリティのものを制作したのが評判を呼び、新たな顧客を獲得してオンリー・ワンの存在になっていきます。
時代に逆行し、手仕事を追求したことが成功の秘訣だったのです。
工場の大火災、倒産・・・幾多の困難を乗りこえ、現在は世界でも有数の磁器メーカーに
出典:ヘレンド本国公式サイト(Fire at the Manufactory)
ヘレンドは今日まで順風満帆で進んできたように聞こえますが、その道のりは決して平たんではありませんでした。
自国ハンガリーの博覧会で受賞し、軌道に乗ってきた矢先の1843年、放火によって工場が大火災に見舞われます。のちにヘレンドのマスター(トップ職人)がこの様子を磁器の皿に残しています(上記写真)。
また、ヘレンドを発展させた立役者モール・フィシェルが息子に会社を譲ったのち、1874年には倒産に追い込まれてしまいます。
しかし、そこから立て直しを図ります。
1897年には、職業訓練(職人の見習い)を始めたり、博覧会においてアール・ヌーボーの作品などで次々と賞を取ったりするなど、挽回していきました。
現在、名だたる有名ブランドが国など公の支援を受けている中、ヘレンドは現在、世界有数の民間の磁器メーカーとしてその地位と品位を保ち続けています。
その顧客リストには、英国王室だけでなく、タイ王室やハプスブルク家など、世界の有名ファミリーが名を連ねています。
「傑作」を生み出し続ける ヘレンドの心臓部分―「マスター制度」
出典:ヘレンド日本公式サイト
産業革命や近代化で、多くの窯がその技術を失っていきましたが、ヘレンドは匠の技にこだわり続け、伝統を守り続けてきました。
その背景にあって重要な役割を果たしていたのが「マスター制度」。
現在もこの制度にのっとり、傑作を生み出しています。
磁器制作には、ペインター部門(絵付)とポター部門(成型)があり、厳しい選考を経てマスターが選りすぐられていきます。ヘレンド日本公式ページによると、例えばペインター部門の実技選考では、
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ヨーロッパ伝統の写実画
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ペルシャに源をもつ細密画
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シノワズリに代表される東洋画
の3つの描写力が求められるそうです。
ヘレンドはヴィクトリアに代表されるシノワズリも特徴の一つであるため、選考の条件として入っているのでしょう。東洋と西洋どちらの絵付の力量が求められるのです。
これだけははずせない! ヘレンドの大人気シリーズをご紹介!
さて、おまたせしました!現在、購入できる人気シリーズを一挙に紹介していきます。
1)ウィリアム王子一家へのお祝いとして贈られた!「ヴィクトリア」
出典:ヘレンド日本公式サイト(ヴィクトリア・ゴールド)
先ほど、ヘレンドの歴史部分でもご紹介した、英国女王が注文したパターン「ヴィクトリア」シリーズ。
牡丹の花と蝶があしらわれたシノワズリのティーセットは、不朽の名作です。「ヴィクトリア」はこの他に、ヴィクトリア柄に金の線が入ってよりモダンになった「ヴィクトリア・ゴールド」(上記写真)や、 ヴィクトリア女王生誕200周年を記念した「ヴィクトリア・ヒストリック」もあります(2019年6月現在)。
出典:ヘレンド日本公式サイト(ヴィクトリア・ヒストリック)
このカップ&ソーサーは、1850年ごろに作られたミュージアム所蔵品を忠実に手仕事で復刻するため、世界限定200客しか作られません!
そのたたずまいは、凛としている中にエレガントさもあり、まさに女王のような存在感があります。
2)宮廷にて皇帝をもてなした!「インドの華」
出典:ヘレンド日本公式サイト(インドの華)
ヴィクトリアと同じく、日本でとても人気のある「インドの華」シリーズ。
かつて、ナポレオン3世の妃ウージェニーが自身の宮廷でオーストリア・ハンガリー帝国のフランツ・ヨーゼフ皇帝をもてなしたときに使用したと言われています。
「インドの華」という名前がつけられていますが、その当時、インドは日本や中国も含めて東洋を指す言葉だったため、日本人にもなじみ深いパターンなのかもしれません。
3)ハプスブルク家最後の皇妃エリザベートも愛した!「ウィーンの薔薇」
出典:ヘレンド日本公式サイト(ウィーンの薔薇)
白い肌にピンクの可憐な薔薇が咲くーこの優雅なシリーズは、元はハプスブルク家専用のパターンで、ハプスブルク帝国が終焉する1918年まで、門外不出のものでした。
1864年に旧ウィーン窯(現在のアウガルテン窯)の閉鎖に伴い、ヘレンドがこのパターンを受け継ぎました。以来、ヘレンドの代表作として愛され続けています。
この商品をストアで見る→ウィーンの薔薇
4)世界的な人気を誇る「アポニー・グリーン」
出典:ヘレンド日本公式サイト(アポニー・グリーン)
アポニー・グリーンを見て、「インドの華」と似ていると思いませんでしたか?この2つをディナープレートで比べてみましょう。
まずは、「インドの華」
出典:ヘレンド日本公式サイト(インドの華)
出典:ヘレンド日本公式サイト(アポニー・グリーン)
お気づきのように、「アポニー・グリーン」は「インドの華」に比べて、絵付が少なめですね。
実はこの「アポニー・グリーン」には誕生秘話があります。時は1860年代後半、大事な来客のために急遽、ディナーセットが必要となったアポニー伯爵。
ヘレンドに対して早めの納品を、と急かします。
すべて手仕事で生産しているヘレンドは、苦肉の策として「インドの華」の簡易版を作ることを提案し、伯爵が受け入れたことからこの「アポニー・グリーン」は誕生しました。
デザインがすっきりしていて、落ち着いた雰囲気がありますが、絵付部分が少ない分、お財布にも優しめな、世界で人気の「ヘレンド・グリーン」のシリーズです。
5)東洋と西洋双方の腕をもつ ヘレンドだからできる 日本限定「ひな人形」と「だるま」
最後にご紹介するのは、日本ならではの作品。
まず、この雛人形は、日本・ハンガリー外交関係開設150周年を記念して作られた新作です。優しくほほえむ表情と、美や洗練を表す芍薬の花があしらわれた姿が日本のお部屋にもなじみます。
出典:ヘレンド日本公式サイト(日本・ハンガリー外交関係開設150周年上海 雛人形 金屏風付)
次はヘレンド製の「だるま」。
ヘレンドと日本の伝統がコラボして、お洒落なだるまになりました!「ヴィクトリア」の華がよいアクセントになっています。
出典:ヘレンド日本公式サイト(だるまL ヴィクトリア・ブーケ)
いかがでしたか?
ハンガリーの小さな村で今も手仕事で作品を生み出し続けているヘレンドの商品をぜひ一度、ご自身の目で確かめてくださいね!きっと心ひかれると思います。
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参考資料
Herendexperts ippin(ヴィクトリア女王が認めたヘレンドのバレンタインギフトpresented byハンガリー大使館)
『すぐわかる ヨーロッパ陶磁の見かた』(東京美術) 『世界やきもの史』(美術出版社)