人気ドラマのロケ地となったグッビオ
中部イタリア、ウンブリア州(Umbria)の州都ペルージャ(Perugia)から車で1時間も走ると、山の斜面に作られたグッピオ(Gubbio)の街が見えて来ます。
出典:depositphotos.com(グッビオ)
街の麓にはローマ時代の野外劇場の跡が現在も残っていますが、街の歴史はローマ時代より更に古く、旧石器時代までさかのぼることができます。
市庁舎と同じ建物の中にある街の博物館には、紀元前3世紀~1世紀に、神々、祭礼、儀式、祈り、催し物等について、古代ウンブロ方言がエトルリア文字で書かれた7枚の青銅板「グッビオの銅板(Tavole eugubine)」が大切に保管されています。これは世界の古代文明の遺物としても大変貴重なものとされています。
出典:Wikipedia(グッビオの銅版)
イタリア人がこの街をよく知っているのはその歴史の深さゆえ、というだけではありません。
実はグッピオはイタリア国営放送(Rai)で2000年から12シーズンにも渡って放映されている人気ドラマ「ドン・マテオ(Don Matteo)」のロケ地として長い間(シリーズ1から8まで)使われていて、イタリア人にとっては非常に見慣れた街なのです。
このドラマ、日本でも「マッテオ神父の事件簿」という邦題で、衛星放送で放映されていたので、ご存知の方もいるかも知れませんね。
出典:luxvide.it
また、中世の面影を色濃くのこすこの街には、まるで鳥かごのような二人乗りのロープウェイや、周りを3周回ると「愚者(matto)」の肩書きがもらえる噴水など、他の街では見ることができない面白いものもたくさん残っています。
出典:World Travel Familiy (ケーブルカー)
ルビー色に光輝く最高のマヨリカ焼き
グッビオでの陶器作りは先史時代に遡り、現在でも古代の陶器の破片が発掘されています。
中世には素焼きのテラコッタや釉薬を使ったシンプルな陶器が製作されていましたが、14世紀に入ると、グッビオは最高のマヨリカ焼きを作る街としてその名をイタリア中にとどろかせます。
15、16世紀のイタリアでは、マヨリカ焼きとは、「錫性釉薬で覆われた陶器」全般を意味する現在とは異なり、「ルストロ(lustro)をもつ陶器のみ」をさしていました。
このルストロ(艶出し、金属的光沢)の技術は「100個作っても6個しか成功しない」と言われるほど難しく、熟練の技と注意力が必要でした。
このルストロの技術を完璧に自分のものにした陶工ジョルジョ・アンドレオリ(Giorgio Andreoli)が、グッビオで工房をひらき、彼はマストロ・ジョルジョ(マストロはマエストロ、名匠の意)と呼ばれ、その名は広く知られていました。
出典:Wikipedia (ジョルジョ・アンドレオリ作)
グッビオのラスター彩は地理的に非常に近いデルタ(Deruta)のラスター彩の影響を受けたと思われますが、デルタのものとは異なり、やや赤みがかった赤胴色に仕上がります。
マストロ・ジョルジョとその一族の工房は、特に華やかなルビー色のラスター彩を得意としていました。
彼らのラスター彩は非常に評判が高く、自分たちの窯だけでなく、他の窯からラスター彩を施すためだけに未完成の作品が送られてきたほどでした。
出典:The Morgan Library and Museum (ジョルジョ・アンドレオリ作)
この新しい技術と共にこの時期には「イストリアート(istoriato、説話画)」という神話や伝記が描かれた陶器が隆盛を極めます。
グッビオと境界を接しているウルビーノ(Urbino)では二コラ・ダ・ウルビーノ(Nicola da Urbino)という陶工が生き生きとした人物表現、巧みな画面構成、広大なウンブリアを背景に描いたマヨリカ陶器を作りだし、イストリアートはイタリア・ルネサンス期のマヨリカ陶器を代表する装飾となりました。
出典:Wikipedia(ニコラ・ダ・ウルビーノ作)
ろうそく祭と世界一大きなクリスマスツリー
グッビオでは毎年街の聖人の日に当たる5月15日に「ろうそく祭(Festa dei Ceri)」が行われます。
この日はろうそくのような形をした1本300キロに及ぶ山車3本が、中世の衣装をまとった街の人たちに担がれ、街中を走り抜けます。
この歴史のある勇壮な祭りの熱気を感じるために、この日は各地から大勢の人が訪れます。
出典:Wikipedia(ろうそく祭)
また毎年12月7日から1月10日の間、山の斜面におよそ800個の電飾を使って世界最大の巨大クリスマスツリーが作られます。
出典:il turista.info(世界最大のクリスマスツリー)
参考資料
すぐわかるヨーロッパ陶磁の見かた、東京美術