「イタリアの最も美しい村」カステッリ
首都ローマ(Roma)の有るラッツィオ州(Lazio)や、ファッションの街ミラノ(Milano)のあるピエモンテ州(Piemonte)に比べると外国人にはまだまだ知名度が低いアブルッツォ州(Abruzzo)ですが、実はその魅力は計り知れません。
緑豊かな大地にはヨーロッパでも5本の指に入る国立公園があり、貴重な動植物が多く生息しています。
また、イタリア半島とバルカン半島を隔てる美しいアドリア海にも面しているので、海の幸も豊富で、夏は大勢の海水浴客でにぎわいます。
アペニン山脈の秘境というイメージも有りますが、実はローマから車で1,2時間も走ればそこはもうアブルッツォです。
州都ラクイラ(L’Aquila)は2009年の大地震によって街の中心部は現在も復興作業が続いていますが、歴史的な建物をそこここに見ることができます。
ラクイラから車で、1時間ほど「イタリアの最も美しい村(I Borghi piu belli d’Italia)」の1つにも選ばれているカステッリ(Castelli)に到着です。
カステッリとは「城」という意味で、街は標高500メートルの高さに位置しています。
出典:I Borghi piu belli d’Italia(カステッリ)
街の見どころはなんと言ってもサン・ドナート教会(San Donato)です。
この教会の天井は1615年から2年間かけて街の全ての陶芸職人が参加して制作されたマヨルカ焼きのタイルで覆われています。
マヨリカ焼きの天井を持つ教会はイタリアでは唯一ここだけです。
出典:turismo.it (サン・ドナート教会の天井)
マヨリカ焼きのシスティーナ礼拝堂
20世紀初頭に、医者でありならが、画家・作家として、反ファシスト活動で活躍したカルロ・レーヴィ(Carlo Levi)は、サン・ドナート教会を訪れた際「イタリアのマヨリカ焼きのシスティーナ礼拝堂」と言ってこの小さな教会を称えました。
天井を飾った一連の美しいタイルは、白地に青、黄、オレンジで人物やそのほかモチーフが生き生きと描かれ、それはまるで印象派の絵画のようです。
出典:Wikipedia(カルロ・レーヴィ)
カステッリでの陶器制作の歴史はとても古いのですが、そのレベルがイタリアの他の陶器の街と肩を並べるまでになったのは、15世紀の終わりから16世紀初めのことです。
ナポリ王国の支配下にあったことやファエンツァ(Faenza)など近郊の街から最新のマヨリカ焼きの技術が入ってきたことによって飛躍的に技術が向上しました。
中でも1551年、オラツィオ・ポンペイ(Orazio Pompei)が製作した「授乳の聖母(La Madonna che allatta il bambino)」は非常に絵画的な作品に仕上がっていて、現在でもカステッリの最も重要な陶芸作品の1つとして、カステッリ陶器博物館(Il Museo delle Ceramiche di Castelli)に大切に保管されています。
出典:archimagazine.it(聖母の授乳)
その後陶器作りはますます盛んになり、18世紀にはグルーエ一族(Grue)とジェンティーレ(Gentile)一族の2窯がカステッリの陶工をけん引して行きます。
グルーエ家の初代、フランチェスコ・グルーエ(Francesco Grue)は非常に薄くて柔らかい色彩で優美なイストリア―ト(歴史画)を描きました。
そしてこの様式がカステッリのマヨリカ焼きの特徴になりました。
のちにこの2家族はナポリ公国へと移り、ナポリで床用のマヨリカタイルや内装装飾タイルの分野で高い評価を得ます。
出典:Wikipedia(フランチェスコ・グルーエ作)
王室御用達のコンフェッティ
アブルッツォ州の名物といえば、アーモンドを砂糖やチョコレートでコーティングした結婚式の引き出物の1つ「コンフェティ(Confetti)」。
日本でも最近、フランス語の「ドラジェ」で知られるようになりました。
出典:Shop Pelino (コンフェッティ)
実はこのコンフェティが生まれたのは15世紀、カステッリと同じくアブルッツォ州にある、スルモーナ(Sulmona)の修道院だと言われています(ただし、カステッリとスルモーナは、アクセスがあまり良くなくて、ちょっと距離があります)。
イタリアではコンフェッティは結婚式だけではなく、出産や卒業など色々なお祝いのシーンでも活躍しています。
スルモーナの街中では、きれいなリボンやセロファンに包まれ、まるでブーケのようになったコンフェッティをよく見かけます。
出典:Shop Pelino (コンフェッティ)
コンフェッティを扱う数多くの店の中でも、1783年、スルモーナの街に創業した老舗コンフェッティ店の「ペリーノ(Pelino)」はイタリア国内だけでなく、海外にもその名を知られています。
実はフランスの故ダイアナ妃の結婚式や、2011年イギリスのウィリアム王子とキャサリン妃のご成婚の時もペリーノからコンフェッティが届けられたそうです。
出典:Shop Pelino
参考資料
マジョリカ陶器、ジスモンディ・ブリツオ著、講談社