フランスとドイツ国境の街「サルグミーヌ」
サルグミーヌ(Sarreguemines)は、フランス・アルザス地方のストラスブールから電車で約1時間半、グラン・テスト地域圏のモゼル県にあります。
古くはアルザス・ロレーヌ地方に帰属し、ドイツとの国境が目と鼻の先にある街です。
ザルー川とブリー川の「合流点」という意味のラテン語が語源となり、サルグミーヌと呼ばれています。
出典: Wikipedia (サルグミーヌ)
この街は自然の恩恵に恵まれ、緑豊かなバカンス地として、ヨーロッパや、またトラム電車が通っているドイツからも多くの観光客が訪れています。
サルグミーヌが最も賑わうのは、2月のカーニバル。
18世紀から始まったそのカーニバルは、1895年にはなんと5万人が集まったとか。現在でも人気のサルグミーヌ・カーニバルには、マスクや変装はした多くの人々で街はまさにお祭りムードです。
出典: sarreguemines-tourisme.com (サルグミーヌのカーニバル)
サルグミーヌを訪れる際には、この近くのサラルブ(Sarralbe)という街も外せません。
川のそばの1907年に建築された、サン=マルタン・ポルトダルブ大聖堂(Cathedrale saint-martin et porte d'albe)は、 歴史ある風貌と相まってなんとも堂々とした佇まいは必見です。
出典: Lorraine Tourisme (サン=マルタン・ポルトダルブ大聖堂)
サルグミーヌの特徴は何と言っても陶器。
2007年の2月にサルグミーヌの陶器は終わりを告げたのですが、これまでの美しきこの陶器を守る為に「ブリーの風車(Le Moulin de la Blies)」と呼ばれる場所があります。
出典: Wikipedia (ブリーの風車)
陶器にちなんだ観光スポットとしては、インスピレーションを与える「陶器の庭(le jqrdin de faïenciers)」や「陶器の技術博物館(le Musée des Techniques Faïencières)」があります。
陶器の技術博物館は当初、陶器の土を作る場所として始まり、今では大事な陶器の機会や道具のコレクションを守る場所として活躍しています。
そして、「陶器博物館」。
この博物館は元は1871年から1914年にオーナーであったポール・ガイガー(Paul de Geiger)の邸宅であった場所が美術館になっており、テーブル食器や陶器のオブジェ、正方形の陶器を合わせてパネルにした建築陶器に有名アーティストの陶器アートなど、この美術館では部屋ごとにたくさんの作品が展示されています。
出典: sarreguemines-tourisme.com (陶器博物館)
またこの陶器博物館で最も有名な場所が「冬の庭」と呼ばれる部屋です。全ての壁がサルグミーヌの陶製品で作られており、細かい装飾など非常にユニークで荘厳です。
出典: Musées de Sarreguemines (冬の庭)
残念ながら、2007年にその歴史に終わりを告げたサルグミーヌ窯ですが、多岐にわたるその細やかな作品に魅せられ、今でも世界中に多くのコレクターがいます。
サルグミーヌ陶器に触れる機会があれば、それぞれの時代に思いを馳せながら、じっくりと作品を眺めて見てください。
フランス内陸部の街「ディゴワン」
ディゴワン(Digoin)は、サルグミーヌの南西、車では5時間ほどの距離に位置し、ワインで有名なブルゴーニュ地方にあり、ロアンヌ川の水運と多くの自然に囲まれた美しい街です。
中世の時代には、ロワンヌ川の水運を利用して大事な川港として発展しました。今ではロアンヌ・ディゴワン運河は、運河クルーズで有名です。
1832年に建設された長さ243メートル、11のアーチを持つロアンヌ・ディゴワン橋は、ロワンヌ川沿いの運河と中央運河を結ぶとても重要な役割を担っています。
そしてその橋からみるロワンヌ川とその景色はなんとも言えない美しさです。
出典: terreditinerances.com (ロアンヌ・ディゴワン橋)
そしてなんと言ってもディゴワンの陶器博物館(musée de la céramique)。1742年の建物が陶器博物館に利用されており、多くの作品が展示されています。
ガロ・ローマ(Gallo Roma、ローマ帝国支配下にあった現在のフランス・ガリア地方の独自文化)の時代から現代に到るまでの作品を14の個性的な部屋に分けて見ることができます。また、ディゴワン陶器の作業方法を知る大事な博物館となっています。
出典: Musée de la Céramique de Digoin (陶器博物館)
また、もう一つの見所はコウノトリ。ディゴワンに2001年からロワンヌ川のほとりにコウノトリが舞い戻ってきたそうです。ウェブカメラが設置されており、運が良ければ可愛らしい実態が覗けるかもしれません。
出典: naturephoto-cz.com (コウノトリ)
サルグミーヌ陶器のはじまり
サルグミーヌでの陶器製造は1790年、18世紀末にはじまり、ニコラ・アンリ・ジャコビ(Nicolas-Henri Jacobi)がふたりの共同経営者とともに工場を設立したことにはじまります。
しかし、時代はフランス革命が勃発する直前、経済状況は悪く、革命直後の 1800年、工場はドイツ・バイエルン出身のポール・ウッツシュナイダー(Paul Utzschneider)の手にわたります。
出典: Zahna-Fliesen GmbH (ポール・ウッツシュナイダー)
しかし、彼の登場により、サルグミーヌ陶器の名は世界に知られることになるのです。
彼はイギリスの陶器について知識が豊富で非常にやり手の経営者でした。
この時代はウェッジウッド(Wedgewood)のような光沢のある陶土(硬石に似せた)の製品の始まりの時期でもあり、ポールはまた新しい陶土を登場させます。
カルメルの土(サルグミーヌの赤い磁器)や、エジプトの土(非常に繊細な褐色)、またナポリの土(黄色)です。
出典: sarreguemines-tourisme.com (サルグミーヌ陶器)
彼の元で、工場は飛躍し、フランス革命後に皇帝の座についたナポレオンを顧客に持つまでになりますが、1836年にウッツシュナイダーは経営から退きます。
その後、工場は、彼の義理の息子であり、同じくバイエルン人のアレクサンドル・ガイガー(Alexandre de Geiger)の下に移ります。
出典: Wikipedia (アレクサンドル・ガイガー)
ガイガーは、自然の風景と調和した工場のあり方に興味をもっており、先に紹介した「ブリーの風車(Le Moulin de la Blies)」は、まさにこの考え方で建設された工場です。
また、この工場は、それだけでなく、当時、時代の最先端であった産業革命の成果である蒸気機関も導入し、この結果、隣接する家に灰が落ちかかるのを防ぐために、高い煙突がこの建物の特徴にもなっています。
また、彼は、1748年にフランス・ロレーヌ地方に創業し、その後、ドイツの名窯となったビレロイ&ボッホ(Villeroy & Boch)との協力体制も築き上げ、工場はさらに成長したのです。
普仏戦争で、サルグミーヌは、フランス領からプロイセン(ドイツ)領に
順風満帆に思えた工場経営ですが、1870年、アルザス・ロレーヌ地方の領有権をめぐっておきた、フランスとプロイセン(ドイツ)間の普仏戦争により、サルグミーヌ窯は大きな問題に直面します。
この戦争の結果、サルグミーヌが、それまでのフランス領から、プロイセン(ドイツ)領へ組み入れられることとなったのです。
そして、ドイツからフランス国内への輸出に対しては、多額の税金がかけられることとなりました。
この難局のかじ取りをしたのが、アレクサンドル・ガイガーの息子ポール・ガイガー(Paul de Geiger)。
出典: Musées de Sarreguemines (ポール・ガイガー)
彼は、この問題を解決するために、フランス内陸部のディゴワン(Digoin)とヴィトリー=ル=フランソワ(Vitry-le-François)に新工場を建設します。
そして、1913年の彼の死後、会社組織(Utzschnieder & Co)そのものを、「サルグミーヌ」を運営するドイツ会社(La Société Utzschneider et Compagnie)と、「ディゴワン」と「ヴィトリー=ル=フランソワ」を運営するフランス会社(Les Etablissements céramiques Digoin, Vitry-le-François et Paris)のふたつにわけるのです。
その後、ふたつの世界大戦の間に、これらの会社はひとつの会社として統合されたり、一時的にビレロイ・ボッホの傘下入りしたりと紆余曲折を経て、1978年にリュネヴィルグループ(Lunéville-Badonviller-Saint-Clémen)が買収するに至って、経営体制が大きくかわります。
「サルグミーヌ」工場は様々なアーティストとコラボレーションした装飾タイル、「ヴィトリー=ル=フランソワ」工場は便器などの衛生陶器、そして、「ディゴワン」工場が食器の製造、「リュネビル」工場が装飾陶器の製造に特化することとなりました。
出典: sarreguemines-museum.eu (サルグミーヌの装飾タイル)
出典: musee-ceramique-digoin.fr (ディゴワンの食器)
しかし、「サルグミーヌ」工場は2007年に閉鎖され、200年の伝統サルグミーヌ陶器はその歴史にピリオドを打ちます。
「ディゴワン」工場は一時、操業を停止していましたが2014年に復活、また、いくつかのモデルのみ「リュネビル」工場が製造を継続し、伝統を守っているのです。
このディゴワン・サルグミーヌ陶器の中でも、日本で特に有名なものが「カフェオレ・ボウル」。
フランスの一般的な家庭の朝食に登場するボウルで、その名のとおり、カフェオレやコーヒーなどを飲むための大きめのマグカップで、本場フランスではカフェオレ・ボウルとは呼ばす、単に「ボウル」などと呼ばれています。
また、その大きさから飲み物を飲むだけではなく、パンをこのボウルに入れたコーヒーや牛乳につけて食べたり、シリアルを食べたり、様々な用途に使われています。コロンとした温かみのあるデザインで可愛いですね。
出典: fromagination.com (カフェオレ・ボウル)
出典: etsy.com (カフェオレ・ボウル)