「陶磁器街道」の一角に位置するクロイセンの歴史と見どころ
皆さんは、ドイツの「陶磁器街道」という名を耳にされたことがあるでしょうか。
グリム童話で有名なメルヘンゆかりの町をつなぐ「メルヘン街道」や、古城が点在する「古城街道」などのように、この「陶磁器街道」は、陶磁器の製造で有名な町をつないでいるルートです。
ドイツの南東部のバイエルン地方からチェコまで続く、全長550kmに及ぶこの陶磁器街道の一角に位置するのが、今回ご紹介するクロイセン(Creußen、Creussen)です。
出典: Wikivoyage (クロイセン)
クロイセンは、茶褐色の地にエナメル(七宝焼き)で色鮮やかな模様を立体的に描き出した、ビアジョッキや壺などで有名です。
いかにもドイツらしい、がっしりとしたこの焼き物は、日本では「炻器(せっき)」、英語で「stone ware(ストーンウェア)」と呼ばれるもので、かつて貴族や上流市民階級に大変人気がありました。
出典: Krügemuseum der Stadt Creußen (クロイセンの炻器)
美しい山や森に囲まれたクロイセンは、人口5000人にも満たない小さな町ですが、1000年以上の歴史があります。
西暦1003年に、ドイツ王(後の神聖ローマ帝国皇帝)ハインリヒ2世が、シュヴァインフルト伯により治められていたこの土地を侵略した時、初めて文書に登場します。
出典: Wikipedia (ハインリヒ2世)
以来、神聖ローマ帝国、プロイセンなどの支配を経て、1810年にバイエルン王国の一部となります。
1430年にはフス戦争(ドイツでカトリック・プロテスタントが争った宗教戦争)、1633年には三十年戦争(プロテスタントの反乱をきっかけにはじまった国際的な宗教戦争)、また1893年には大火により、町はひどく破壊されましたが、そのたびに再建され、美しい旧市街の街並みは今でも中世の趣をたたえています。
クロイセンの町を囲む市壁は14世紀に築かれ、当時のままに残されています。6つの塔と2つの出入り口があり、裏門にある塔はかつて監獄として使われていました。
裏門の横には「壺の博物館」があり、クロイセン周辺の土でしか製造できない、貴重な壺や陶磁器を見ることができます。
町の中心部に建つ「市庁舎」は、1360年に立てられました。フス戦争で破壊されましたが、1477年に再建されました。当時設置された、市の日に使うパン屋と肉屋のスタンドが残されており、中世の面影を知ることができます。
出典: Stadt Creußen (市庁舎)
その他の見どころは、「聖ヤコブス教区教会」です。この教会も、フス戦争により破壊されましたが、市庁舎と同じく1477年に再建されました。
1700年には辺境伯クリスティアン・エルンストにより改装され、バロック風の内装になりました。天使の像が数多く置かれているので、この教会は「天使の教会」とも呼ばれています。
教会横のマルクス塔の上からは、クロイセンの町と、周辺の赤マイン川渓谷の美しい景色を楽しめます。
出典: Stadt Ceußen (聖ヤコブス教区教会)
もう一つ、クロイセンで見ておきたい建物は、「エルミーテンホイシェン(隠者の館)」です。ここは、ドイツで現存する唯一の、市民階級によって建てられた隠居用の住まい(エルミタージュ)です。
1760年に神学者のヨハン・セオドア・キュネスによって建てられたこの家は、バロックやゴシックなどいくつかの建築・装飾様式が組み合わされ、大変珍しいものとなっています。
出典: Stadt Ceußen (エルミーテンホイシェン、隠者の館)
伝統を感じさせるクロイセンの祭り
長い歴史を持つクロイセンの町では、年間を通じて数々の興味深い祭りが催されます。
陶磁器市
毎年7月の第二日曜日には、17~18世紀に隆盛を極めたクロイセンの陶磁器作りの伝統を記念した、陶磁器市が開かれます。ヨーロッパ中のマイスター工房から集まった、日常使いからモダン・アートまで幅広いジャンルの作品が、マルクト広場のスタンドで展示販売されます。
グレゴリ祭り
グレゴリ祭りというのは、もとは9世紀に法王グレゴリー4世が、子どもと学校の守護聖人であるグレゴリー1世を記念して始めたお祭りです。
クロイセンではこのお祭りは、17世紀からの伝統になっています。現在では二年に一度、偶数年の学校の夏休み前の最後の週末に行われます。
このお祭りのハイライトは、「オンドリ叩き(Hahnschlag)」と呼ばれるゲームです。目隠しをして、手に持った白樺の杖で陶製の壺をたたき割る事ができたら、その人はオンドリを一羽、景品としてもらうことができるそうです。
出典: Stadt Ceußen(グレゴリ祭り)
クリスマス市
アドベント(待降節、イエス・キリストの降誕を待ち望む期間でヨーロッパではクリスマスまでの準備期間になっています)の第一週目の週末(たいていは11月末)には、クリスマス市が開かれます。
市庁舎の中や周辺に、クリスマスの飾りや焼きソーセージ、グリューワイン(スパイス入りのホットワイン)などを売るスタントが立ち並びます。
またクロイセン独特の風習として、旧市街の家々がこの週末に限り、戸口を開けて美しく飾り付けた玄関先を一般に公開してくれます。
そのため、このクリスマス市は「フランケン地方の玄関先クリスマス(Fränkische Hausflurweihnacht)」と呼ばれています。
出典: Stadt Ceußen(クリスマス市)
貴族や上流市民階級に愛されたクロイセンの焼き物
クロイセンの名産は、日本語では「炻器(せっき)」(「焼き締め」や「半磁器」とも)、英語では「ストーンウェア(stone ware)」と呼ばれる焼き物です。
約1200度~1300度の高温に耐え、磁器と陶器の間くらいの性質を持っています。
丈夫で水を漏らさず、また水に味が移らないため、壺や瓶、茶器やジョッキなどとして重宝されました。
ドイツの他の土地で作られたものは、出来上がりが灰色であるのが普通でしたが、クロイセンの焼き物は美しい茶褐色で、他の産地の物とは一線を画していました。
その高度な技術と芸術性により、17~18世紀の貴族や富裕市民層の間で、クロイセンの焼き物は格別の人気を誇っていました。
出典: Stadt Ceußen (クロイセンの炻器)
クロイセンの焼き物の中でも特に有名なのが、華やかかつ繊細な模様が施されたビアジョッキや飾り壺などでしょう。
エナメル(七宝焼き)で色鮮やかに、かつ立体的に描かれた絵柄と、へらで綱の編み目のように刻まれた模様が特徴的です。
絵柄のモチーフとしては、聖書からのもの、狩りの様子、また貴族の家紋などに人気がありました。家名なども刻まれており、そこからもクロイセンの焼き物が、当時の貴族などの上流階級に人気であったことが伺い知れます。
クロイセンの市壁の裏門横にある「壺の博物館」では、これらの貴重な焼き物のコレクションを見ることができます。
出典: Krügemuseum der Stadt Creußen (炻器に刻まれた家紋)