Photo by Haruna Fukazawa
「白い食器が好き」「ヨーロッパのアンティークや建築デザインが好き!」、そんな方もいらっしゃるかもしれませんね。
もし、あなたがそうなら、迷わずフランスの「アスティエ・ド・ヴィラット」という食器ブランドをオススメします!
芸能人のSNSにたびたび登場したり、デザイン系の雑誌に取り上げられたりするなど、何かと話題の「アスティエ・ド・ヴィラット」。
今回は、この「アスティエ・ド・ヴィラット」が人々の心を惹きつけてやまない理由や人気シリーズを紹介します。これを読むと、食器がますますほしくなって危険かも!
画家を志していた2人の若きフランス人男性がパリで陶器を作ったのが始まり
Photo by Haruna Fukazawa(アスティエのフランス本国ショップ)
ヨーロッパの洋食器ブランドは、1710年創業のドイツのマイセンや、オーストリアのアウガルテン、イタリアのリチャード・ジノリに代表されるように創業300年という歴史は珍しくありません。
長く人々に愛されてきた有名窯が多い中、「アスティエ・ド・ヴィラット(Astier de Villatte)」(以下、アスティエと略)は、実は比較的新しい工房です。1996年創立とまだ歴史は浅いのですが、その名をすでに世界中にとどろかせています。
アスティエは、パリ国立高等美術学校(エコール・デ・ボザール)を卒業して間もない、2人の若きフランス人男性によって創立されました。画家を志していた「ブノワ・アスティエ・ド・ヴィラット」と「イヴァン・ペリコーリ」です。
もうお分かりですね。
アスティエのブランド名は、「ブノワ」の苗字にちなんで名づけられました。アスティエ・ド・ヴィラット家は芸術一家。
ブノワの父で画家のピエール・キャロンはなんと、ブノワとイヴァンの2人が通った美術学校で教鞭を取っていました。ブノワは幼い頃から家庭の中で美的センスが養われていたのでしょうね。
パリの美術学校で出会った2人。意気投合した背景には、「バルテュス(Balthus)」というフランスの画家の存在がありました。バルテュスとは、誰もが知るあの絵画の巨匠ピカソに「20世紀最後の巨匠」と言わしめた人物!
バルテュスの画風は、現在もアスティエのデザインに大きな影響を与えています。
出典:Wikipedia(Portrait de Louise Vernet avec son chat、バルテュス作)
ちなみに、バルテュスの妻は日本人女性「節子・クロソフスカ・ド・ローラ」さん。自身も画家など多岐にわたって芸術家として活躍しています。
2人とバルテュスとの縁は偶然ではなく、運命に導かれたものだったかもしれません。
実は、ブノワの父ピエール・キャロンは、若い頃、才能ある芸術家のレジデンスとして有名なローマの「ヴィラ・メディチ(Villa Medici)」でバルテュスと親交を深めていたんです!
出典:Wikipedia(ヴィラ・メディチ)
ブノワはこのヴィラ・メディチで生まれて、バルテュスの画集を見て育ったそう!
そして、ブノワとイヴァンの2人とバルテュス一家の交流は、バルテュスが亡くなった現在も脈々と続いています。その証拠にアスティエのシリーズの中には、「セツコ(setsuko)」というバルテュスの妻、節子さんの名前を冠したシリーズがあるのです!
このシリーズは後ほど、紹介しますので、お楽しみに。
そんな二人が1996年にパリにアトリエを構え、陶器の作品を作り始めました。芸術家の2人らしく(?)、マーケティングはしない、広告戦略もないという状態だったにもかかわらず、その美的センスにあふれた器は口コミで評判が広がり、世界中からオーダーが舞い込むようになったのです。
工房だけでなく、陶土までも!完全なるMade in Parisの作品たち
Photo by Haruna Fukazawa (アスティエのフランス本国ショップ)
フランスには、白くて美しい磁器「リモージュ焼」で有名な街「リモージュ」や、
出典:Wikipedia (リモージュ磁器)
色鮮やかな絵付けで愛らしい「ルーアン焼き」を生み出す古都「ルーアン」
出典:Musée de la céramique de Rouen(Bannette Rouen, vers 1740)
など、焼き物で有名な街がたくさんあります。
そんな歴史的な背景もあってか、アスティエを設立するとき、周囲の人はみな、フランス郊外の都市や海外で工房を構えることを勧めたそう。確かに家賃も人件費も安そうな場所でお金を抑えて・・・と考えるのが自然かもしれませんね。
しかし、2人はそんな意見はどこ吹く風。2人が工房を構えたのはフランスの首都であるパリでした。
なぜなら、パリはインスピレーションを得る源であり、一味違ったものを生み出すにはパリが最適、という考え方だったのです。ちなみに現在、陶磁器の工房をパリにかまえるのはここ、アスティエのみです。
アトリエだけではありません。アスティエは、陶器の原料となる土までもMade in Parisなのです!
パリ近郊で採れる、深みのある褐色の陶土を使って製作しています。パリ近郊産の原材料を使って、パリの工房で作り、パリで販売する。正真正銘、Made in Parisのブランドなのです。
アスティエ・ド・ヴィラットが世界中をとりこにする「3つの理由」とは?
Photo by Haruna Fukazawa
アスティエが生み出す作品はなぜ、こんなにも人の心をつかんでやまないのでしょう。その美しさやクリエイティビティにはきちんとした理由があると考えられます。こだわりぬいたモノづくりの姿勢は圧巻です!
1)18~19世紀のアンティークを現代風に解釈した「デザイン」
Photo by Haruna Fukazawa (アスティエのフランス本国ショップ)
アスティエの食器を見て、その美しさにため息をもらす方もいらっしゃるかもしれませんね。
アスティエの食器を見て素敵!と思うのは、そのデザインが18~19世紀のアンティークなど「古き良きもの」にインスパイヤされたものだからかもしれません。
例えば、蚤の市で埋もれていたアンティークの食器セットや、通りに捨てられていた古い食器のかけらなど、ともすれば見過ごされてしまいそうな「古き良きもの」からもヒントを得ているといいます。
しかし、ただ古いものをまねるのではなく、そこにブノワとイヴァンが現代風に「解釈」してデザインしているといいます。「古典」を現代風に「翻訳」した作品、だからモダンな生活の中でひと際存在感を放つ作品になっているのでしょうね。
2)職人の手によって丁寧に生み出される「世界に1つだけの器」
Photo by Haruna Fukazawa
機械で作られる完璧なフォルムのものでなく、ちょっとだけ凹凸があったり、小さな穴があいていたりするなど、人の手の温もりが感じられるようなもの・・・
アスティエの器の佇まいが美しいと感じるのは、大量生産の食器ではないことも1つの理由かもしれません。実はアスティエは、大量生産・大量消費の現代の風潮に逆行し、職人による丁寧なモノづくりを行っています。
アスティエでは、19世紀に起こった産業革命以降、すたれてしまった「エスタンパージュ」という型取りの技法を復活させて、時間をかけて丁寧に作品を生み出しています。
また、流れ作業での制作ではないのも特徴。
陶磁器は、粘土をこねたり、成型したりするなどの工程を分業して生産されることも多いのですが、アスティエでは、土を練るところから、成型までを1人の職人の手が一貫して担当するのです!だから、とても時間と手間がかかっているのです。
このように、一つひとつ職人の手によって生み出されるからこそ、2つとして同じものはありません。例えば、下記の2枚の同じ皿を見比べてみてください。
Photo by Haruna Fukazawa
よく見ると、右上の皿には小さな穴があいていますが、左下の皿にはあいていません。
「不完全さ」を愛する2人にとって、これは欠点ではなく「長所」。
他にも、少しだけ歪んでいたり、褐色の陶土と白い釉薬のムラが強かったりするものも。みんな同じ顔の食器ではなく、たとえデザインが同じでも一つひとつ違う表情をもつ食器なのです。
アスティエの作品を生み出す職人たち、どんな人だと思いますか?
日本ではあまり知られていませんが、その多くはチベット出身。仏教の勉強をしていたり、中には仏教学の学位を持っていたりする人もいるとか。なぜ、チベット?と思うかもしれませんね。
その理由の一つは、イヴァンとブノワは自身を「チベットマニア」と表現するほどチベットが好きだからだそう。
また、チベット出身の職人を迎えている背景には、敬虔な仏教徒が多く、子どもの頃から曼荼羅(まんだら)に親しむなど、アーティスト的な感覚を身に着けていることや、仕事に対して誠実であるということもあるそうです。
出典:Wikipedia(曼荼羅)
※曼荼羅とは、密教の経典にもとづき、主尊を中心に諸仏諸尊の集会(しゅうえ)する楼閣を模式的に示した図像。
3)ところどころ褐色の陶土が透けて見える「味わい深い白さ」
Photo by Haruna Fukazawa (アスティエのフランス本国ショップ)
磁器の白さとは違った趣があるアスティエの作品。グレイッシュとも、ミルキーホワイトとも表現される、温かみのある白。この色合いは、深い褐色の陶土に白い釉薬(ゆうやく:陶磁器の表面を覆う素材)をかけることで生まれます。
実はこの陶土、伝統的に陶器制作よりも、彫刻などの制作に使われてきたもの。2人が美術学校で学んでいたときに出合った土なのです。
この土の特徴は、少しざらざらしたり、でこぼこしたりするなど、なめらかでない仕上がりになること。そんな土をなぜ、あえて使うのでしょう?
その答えは・・・
「美しいから」の一言につきるそう!
実用的な、使うためのモノづくりをする代わりに、芸術家の2人らしく「静物にしっくりくるような美しいものを作りたい」という思いがあるそうです。
少し凹凸のある表面に白い釉薬をかけることでいい具合にムラができ、光があたると陰影が現れる、そんな点も味わいを増しているのかもしれませんね。
あなたが一番ほしいのはどれ?アスティエ・ド・ヴィラットの人気シリーズ
Photo by Haruna Fukazawa (アスティエのフランス本国ショップ)
アスティエのシリーズは数えきれないほどあります。どれも美しくて迷ってしまいますし、好みが分かれるかもしれませんが、人気シリーズの一部を紹介します!
プレート&カップ5選
1)どんなシーンにもマッチする不動の人気「シンプル」(Simple)
出典:アスティエ・ド・ヴィラット本国公式サイト(シンプル)
アスティエで不動の人気シリーズ「シンプル(Simple)」。縁にほどこされた一本の線がアクセントとなり、モダンな雰囲気を醸し出しています。装飾を抑えているから、和食にも洋食にも合わせやすいシリーズです。
ティーカップはそのシンプルさに、アンティークのようなハンドル(取っ手)の美しさが加わってさらに存在感がありますね!
出典:アスティエ・ド・ヴィラット本国公式サイト(シンプル)
2)フランスっぽい食器がほしいあなたにぴったり!「レジェンス」(Régence)
出典:アスティエ・ド・ヴィラット本国公式サイト(レジェンス)
上記の写真はフランスの古いお城や額縁にもありそうな形をしていますよね。
それもそのはず、レジェンス(Régence)とは、18世紀のフランスの美術様式のこと。この様式をオマージュして作られています。クラシカルなフォルムで優雅なお茶の時間を楽しみたいあなたにぴったりです!
こちらのティーカップも素敵!まるでフランスの古城にあるような古典的なハンドルが美しさを際立たせています。
出典:アスティエ・ド・ヴィラット本国公式サイト(レジェンス)
このレジェンスシリーズに似たもので、「バック(Bac)」シリーズもおすすめですよ!
出典:アスティエ・ド・ヴィラット本国公式サイト(バック)
3)ころんとした可愛らしいつぶつぶがアクセント!「アデライド」(Adélaïde)
こちらも大人気のシリーズ!丸いつぶつぶがついた食器は、ヨーロッパのクラシックな食器に見られるデザインです。縁の立体的なつぶつぶが額縁のようになって、料理を引き立ててくれそうですね。
出典:アスティエ・ド・ヴィラット本国公式サイト(アデライド)
ティーカップもおしゃれ!和食器ではなかなか見ないフォルムで、インパクト大です。
出典:アスティエ・ド・ヴィラット本国公式サイト(アデライド)
つぶつぶの主張を抑えたものがお好みの方には、「クララベル(Clarabelle)」というシリーズもおすすめです!
出典:アスティエ・ド・ヴィラット本国公式サイト(クララベル)
4)1枚で特別な存在感を放つものがほしいあなたに!「キューブ」(Cube)
出典:アスティエ・ド・ヴィラット本国公式サイト(キューブ)
美しい幾何学模様の光と影が美しい「キューブ(Cube)」シリーズ。おもてなしやパーティーにぴったり。1枚あると、テーブルが華やぎ、特別な空間になります。
また、ハンドルがついたティーカップはありませんが、ハンドルなしのカップやゴブレット(取ってのないコップ)も素敵。このゴブレット(下記写真)は、コップとしてだけでなく、花瓶やインテリアとしても使えそうですね。
出典:アスティエ・ド・ヴィラット本国公式サイト(キューブ)
5)クリスマスシーズンにもぴったり!「エトワール」(Etoile)
出典:アスティエ・ド・ヴィラット本国公式サイト(エトワール)
フランス語で「星」を意味する「エトワール」シリーズ。これからクリスマスやお正月を迎え、人をおもてなしする機会が増える時期にぴったりです!
少し大きめのディナープレートはまた、違ったシェイプでこちらもおすすめです。
出典:アスティエ・ド・ヴィラット本国公式サイト(エトワール)
置物や花瓶などのインテリア
1)猫好きさん必見!猫モチーフのカップやインテリア
出典:アスティエ・ド・ヴィラット本国公式サイト(セツコ)
あなたは猫派ですか?それとも犬派?
どちらであっても、猫がハンドルになったこのユニークなカップには「かわいい!」という声が聞こえてきそうです。
これは「セツコ(Setsuko)」シリーズという、前述した画家バルテュスの妻、節子さんの名前を冠したシリーズ。なぜ、猫にバルテュスの奥様の名前が?と思われるかもしれませんね。
実は、猫はバルテュスの象徴とされ、バルテュスの絵画の中にもよく猫が登場していることが大きな理由。節子さんと一緒にこのシリーズを制作したそうです。
下記の猫ちゃんは、何だと思いますか?
出典:アスティエ・ド・ヴィラット本国公式サイト(セツコ)
なんと、ティーポット!カップと合わせてそろえたい作品ですね。
猫のインテリアもご紹介します。これも何だかわかりますか?
出典:アスティエ・ド・ヴィラット本国公式サイト(セツコ)
お香入れなんです!
猫の口の部分からお香の煙が立ち上がる仕組み。なんとも粋なデザインですね。
2)あなたの家にはどれが合いそう?さまざまなフォルムの花瓶
出典:アスティエ・ド・ヴィラット本国公式サイト(アデライド)
花瓶や水差し(ピッチャー)の種類も豊富です。上記は「アデライド(Adélaïde)」シリーズのピッチャー。
また、シンプルだけど、人の顔が彫刻のようにほどこされている「アレクサンドル(Alexandre)」シリーズ。他の花瓶は他と一味違ったデザインでおもしろいですね。
出典:アスティエ・ド・ヴィラット本国公式サイト(アレクサンドル)
「コルベール(Colbert)」もアンティークの水差しのようなフォルムが美しいですね。ピンクや赤い薔薇なんて生けたら素敵ですね!
出典:アスティエ・ド・ヴィラット本国公式サイト(コルベール)
コルベールシリーズには、取ってのないシンプルな花瓶もあります。
いかがでしたか?
アスティエに惹かれる理由がわかって、ますますほしい!と思った方もいらっしゃるかもしれませんね。
現在、日本にはアスティエの直営店舗はありませんが、セレクトショップなどで扱っているところもあります。もし、商品が気になるなら、ぜひ一度、アスティエのフランス本国サイトを覗いてみることを強くお勧めします!
2人のこだわりがよくわかる、ビジュアル重視のウェブサイトで文字は少なめだからご安心を!
ここでは、日本にはあまりまだ見かけないシリーズも見つかるかもしれません。ぜひ一度、自分の目で確かめてくださいね!
出典:アスティエ・ド・ヴィラット本国公式サイト(Serena)
参考資料
VOGUE―Breaking the Mold(English)
Musée de la céramique de Rouen(ルーアン陶磁器博物館)
「BONZOUR JAPON第59号」(ボンズール ジャポン)
「器の教科書」(マガジンハウス)