アマルフィ海岸の始点の街
2009年に公開された織田裕二主演の「アマルフィ 女神の報酬」という映画によって、日本でも一躍有名になった南イタリアのアマルフィ海岸。
その東の端に「海の上のガラス」という名前の街、ヴィエトリ・スル・マーレ(Vietri sul mare)はあります。本当に、ガラス細工のように綺麗な街ですよね。
出典:depositphotos.com(ヴィエトリ・スル・マーレ)
アマルフィ海岸は、このヴィエトリ・スル・マーレから西、アマルフィ(Amalfi)を経て、ポジターノ(Positano)まで続く海岸線のことを指します。
ヴィエトリ・スル・マーレまではナポリから車で1時間、サレルノからはわずか4キロ、アマルフィまでは11キロの距離です。
出典:depositphotos.com(アマルフィ海岸)
海岸を彩るカラフルな陶器
古くから陶器作りが行われていたヴィエトリ・スル・マーレには、1020年サンティッシマ・トリニタ・ディ・カバ・デイ・ティレッニ修道院(Abbazia della SS. Trinità di Cava dei Tirreni)の建設を機に多数の工房が出来、この辺りでは有数の陶器の街となります。
出典:https://www.fondoambiente.it/(サンティッシマ・トリニタ・ディ・カバ・デイ・ティレッニ修道院)
また、海洋貿易のおかげでシチリアからマヨリカ焼きの製法がもたらされたことで、それまでにはない素晴らしい作品が生まれ、12世紀になると街で作られた陶器はヴィエトリ・スル・マーレの海岸からイタリア中に運ばれるようになりました。
その後、16世紀には白い下地にトルコブルー、黄、オレンジ(まれに緑)だけで単純に図案化された柄が描かれたシンプルなこの街独特の陶器が生まれました
。これが現在もアマルフィ海岸のあちこちで見られる陶器や教会の屋根のタイルの原型になったと言われます。
出典:depositphotos.com(ヴィエトリ・スル・マーレの街を飾るセラミックタイル)
例えば、ヴィエトリ・スル・マーレの高台に建つサン・ジョバンニ教会(Chiesa di S.Giovanni)の鐘楼の丸屋根は、伝統的な青・緑・黄色を使ったマヨリカ焼きで覆われています。
出典:https://www.positano.com/(サン・ジョバンニ教会)
19世紀に入るとイタリア国内だけでなく、海外からも著名なアーティストがヴィエトリ・スル・マーレを訪れ、街の名前を一層有名にしました。
中でも有名なのはドイツ人陶芸家リチャード・ドーカー(Richard Dolker)で、彼の作ったロバが街の中心にあるマッテオッティ広場(Piazza Matteotti)に飾られています(現在はレプリカ)。
このロバは街のシンボルになっているだけでなく、この街で一番売れるお土産のモデルとなっています。
出典:https://www.positano.com/(リチャード・ドーカーのロバ)
これら、色とりどりの陶器に魅せられたなら、是非、足を運びたいのが「ヴィエトリ陶器博物館(Museo della Ceramica Vietrese)」。ここには、15世紀以降のアマルフィ海岸やサレルノ近郊のマヨリカ焼きが所蔵、展示されています。
出典:https://www.livesalerno.com/ (ヴィエトリ陶器博物館)
心が躍る「美味しい思い出」のソリメーネ
現在、ヴィエトリ・スル・マーレに数ある陶器工房の中でも、最も有名な工房のひとつが“ソリメーネ(Solimene)”です。
この街で15世紀から陶芸の仕事に携わっていた家に生まれたヴィンチェンツァ・ソリメーネ(Vincenco Solimene)は伝統的な手法を継承しながら、最新の技術を取り入れ、時代のニーズに合った陶器を作り出しました。
一枚一枚手で絵付けされた陶器には、南イタリアの太陽いっぱいで育った野菜や新鮮な魚がよく似合います。
出典:Ceramica artistica Solimene(Decoro Campagna)
出典: Ceramica artistica Solimene(Decoro Limoni b. Blue)
突然ですが、“ブオンリコルド”(Buon ricordo)をご存知でしょうか?
「美味しい思い出」という意味のブオンリコルド協会は「イタリアの伝統ある料理(Cucina Tradizionale)やその文化の保存と普及」をモットーに活動しており、加盟レストランは、本国イタリアだけでなく、ヨーロッパ各国や、アメリカ、アジア(香港・シンガポール、そして日本!)にも広がっています。
そして、この協会が認めたイタリアンレストランで、伝統的な一皿を食べるとオリジナルの“シグネチャー・ディッシュ”(Piatti del Buon Ricordo)がもらえるのですが、実は、このシグネチャー・ディッシュを作っているのがサリメーネ社なのです。
出典:ブオンリコルド協会HP(シグネチャーディッシュ)
世界中にコレクターも多いこのお皿には、陶芸と料理と分野は異なるけれども、伝統を守る職人たちの心意気が、イタリアらしい鮮やかな色づかいによって生き生きと描かれています。