ボーン・チャイナを産み出したイギリス陶磁器の聖地にある隠れ家ホテル
ボーン・チャイナとは、牛の骨灰や骨リンを陶石に混ぜることによって出てきた、半透明で乳白色に輝く陶磁器。
それを生み出したのは、イギリスにある「ストーク・オン・トレント」という街です。
日本ではあまり知られていないこの街、あのウェッジウッドやスポードをはじめ、日本でも人気急上昇中のバーレイやエマ・ブリッジウォーターなど、イギリスを代表する陶磁器の工場が多数あります。
そんな英国陶器の聖地を訪れるなら、ぜひとも泊まってほしいのが、あのウェッジウッド家ゆかりの邸宅を改装したホテル「ジ・アッパー・ハウス(The Upper House)」です。
英語の直訳だと、「上院」(日本だと参議院)ですが、この場合は、「山の手の邸宅」くらいの意味なんでしょうかね。
出典:https://wabbey.net(エントランス)
出典:https://wabbey.net(外観)
邸宅ホテルの横には、約12,000坪(東京ドームと同じくらいの広さ)の悠大な森ときれいに整えられた庭園が広がっています。
その美しさゆえに結婚式場としても地元の人々に愛される館。街の中心部から車で10分ほどの見晴らしのよい高台にあり、喧騒から離れた、静かで落ち着いた大人の空間です。
出典:https://wabbey.net/(森と庭園)
出典:https://wabbey.net(森と庭園2)
約170年前にウェッジウッドの孫が購入した大邸宅
イギリス陶工の父と言われるジョサイア・ウェッジウッド。
ジ・アッパー・ハウスは、ウェッジウッドの創始者であるジョサイアの孫フランシスが所有していたものです。
当時は陶器生産が盛んで、窯から出る煙による大気汚染が深刻でした。フランシスは家族のために緑が多く空気のよいこの場所を選び、今から約170年前の1845年に購入したそうです。
ウェッジウッド家は招待客をもてなすのが好きで、よく友人や親類を家に招いていたそう。
通常、パーティーは20人ほどを招待しており、夜更けまで楽しい時間を過ごしたゲストはそのまま宿泊することもあったそうです。現在も、当時の面影が随所に残っています。
ロビー横には暖炉のある落ち着いたラウンジ。暖炉の上や壁など、至る所に当時を思わせる陶磁器コレクションが並んでいます。
出典:https://wabbey.net(ロビー横のラウンジ)
出典:https://wabbey.net(ラウンジのマントルピースと陶磁器コレクション)
また、ダーウィン・ルームと言う名前の豪華な部屋も。
実はジョサイア・ウェッジウッドの娘スザンナは、「進化論」を書いたイギリスの自然科学者チャールズ・ダーウィンの母なのです。
つまり、ダーウィンは、ジョサイア・ウェッジウッドの孫なのです。陶器と生物学の発展の両方にウェッジウッド家は欠かせない存在だったのですね。
悠大な自然と英国の伝統をリーズナブルな価格で体験できる隠れ家ホテル
そんな歴史ある場所に、宿泊してみました。
到着した日は土曜日の夕方。にぎやかな結婚パーティーが行われていました。
中心地から少し離れていることもあり、周辺に食事ができるところがないので、ホテルのレストランを事前に予約していました。
案内されたレストランのマントルピースの上には、ウェッジウッドのジャスパーウエアが飾られています。
伝統を感じられるラグジュアリーな雰囲気、食器はやはりウェッジウッド、なのに、料理もワインもリーズナブルな価格で嬉しい驚きでした。
出典:https://wabbey.net(レストランのマントルピースとジャスパー・ウェア)
出典:https://wabbey.net(ディナー・ローストダック)
出典:https://wabbey.net(ディナー・牛肉のワイン煮)
24ある客室にはそれぞれ、それぞれ陶器ブランドの名前がついているので、室内がアンティーク食器で飾られているのか!と期待して泊まりましたが、残念ながら、室内はごく普通の部屋でした。
ただ、シャワーやトイレはリフォームされ、清潔感のあるイギリスのB&Bといった雰囲気です。
なお、フランシス夫妻の寝室は、現在、「エマ・ブリッジウォーター」ルームとなっており、この室内は、エマ・ブリッジウォーターの陶器やファブリックで統一されているそうですよ。
せっかく行くなら、是非、この部屋に泊まりたい所ですね。
翌日の朝食もこのレストランでいただきました。
写真は、スタッフォードシャー風の朝食(Staffordshire Breakfast)という地元エリアの名を冠したイングリッシュ・ブレックファーストと、陶器職人の朝食(Potters Breakfast)です。
出典:https://wabbey.net(朝食・奥がスタッフォードシャー風朝食、手前が陶器職人の朝食)
陶器職人の朝食には、この地方の名物である「オーツケーキ」という、オーツ麦が入ったパンケーキがつきます。
当時の陶器職人もこれを食べて仕事をしていたのでしょうか。歴史に思いをはせつつ、素朴な味を堪能しました。
朝食後は、森と庭園を軽く散歩して、リスとウサギに出会いました。たわわに実ったリンゴの木や、近くの散歩道には犬と散歩する人たちの姿が見られ、日々の喧騒から身も心も離れて、心豊かな時間を過ごすことができました。
出典:https://wabbey.net(庭園と森)
歴史を身近に感じられる邸宅に泊まるなんて、さぞ敷居も値段も高そうに思ってしまいますが、スタッフは皆さんフレンドリーで、お値段もロンドンのような大都会と比べたら全然、お手頃な価格です(ロンドンの異常な物価と比べたら、むしろ安いくらい)。
英国陶磁器の伝統を身近に感じながら、都会の喧騒から離れてゆっくりとした時間を過ごせる隠れ家邸宅に、是非、足を運んでみてください。
基本情報
The Upper House The Green, Barlaston, Stoke-on-Trent, Staffordshire, ST12 9AE
参考資料
A history of The Upper House(ホテルパンフレット)