イギリスでも1、2を争う長い歴史をもつ名窯
ロイヤルウースター(Royal Worcester)は1751年に創業され、現在も操業を続ける陶磁器メーカーとしては、イギリスで1、2を争う長い歴史を有しています。
ちなみに、ロイヤルクラウンダービーの創業が1750年なので、わずか1年の差で最古の窯という栄誉は逃していますが、ヨーロッパで最初に硬質磁器の製造に成功したマイセンの創業が1710年、イギリスで最も有名ともいえるウェッジウッドの創業が1759年ですから、いかに長い伝統を有している窯かイメージが湧くのではないでしょうか。
ロイヤルウースターは、医師のジョン・ウォール博士(Dr John Wall)と薬剤師のウィリアム・デイヴィス(William Davis)が磁器の新しい製造方法を発明したことで、新たに13名の出資者を募る形で、イングランドの中西部に位置するウスター州のセヴァーン川(Severn)のほとりに、"The Worcester Tonquin Manufactory"として開業しました。
この時の、パートナーシップ証書(会社設立証書みなたいもの)は、現在も、ウスター陶磁器博物館(Museum of Worcester Porcelain)に保管されています。
出典: Wikipedia (ジョン・ウォール)
出典: depositphotos.com (ウースター大聖堂とセヴァーン川)
創業の翌年1752年には、ソープストーン(その名のとおり、硬度が低く石鹸のような質感をもった天然石)を素地に混ぜた軟質磁器を作る「ブリストル工房」を合併し、薄い食器を製造する技術を手に入れます。
1796年にスポードが「ボーンチャイナ」の技術を確立するよりも約半世紀も早く、この薄く高品質な陶磁器を製造する作る技術を確立し、事業の拡大に貢献します。
出典: Museum of Royal Worcester (ジョン・ウォール時代の製品)
陶磁器界で最も早くロイヤルワラント(英国王室御用達)の称号を得る
1783には、ロンドンで販売代理店をしていた、トーマス・フライト(Thomas Flight)が経営権を買い取り、以降、ふたりの息子とともに経営をリードするようになります。
1788年には、国王ジョージ3世とシャーロット王妃の訪問を受け、翌年1789年、国王ジョージ3世よりイギリスの陶磁器会社としては初めてロイヤルワラントを賜り、晴れて英国王室御用達の窯となりました。
出典:Wikipedia(ジョージ3世)
一方、このような輝かしい栄光の陰で、この期間は、青と白のパターンが製品のほとんどを占め、またこのようなデザインは中国製の安価な製品との価格競争にさらされ、工場の経営面では決して楽ではありませんでした。
このような状況を打破すべく、新たな製品を生み出したのは、トーマス・フライト、と1792年に新たに経営に参画したマーティン・バー(Martin Barr)の息子たちの世代になってからでした。
フランス旅行から戻った息子たちが、フランス風のレリーフ(表面の溝)の技術を持ち込み、イギリスの田園風景やネオ・ロココ調の様式で、ロイヤルウースターに新しい風を吹き込み、さらなる隆盛を迎えます。
出典: Museum of Royal Worcester (フライトとバー時代の製品)
いくつもの工場を合併しさらなる成長を遂げるも、現在はポートメリオンの傘下に
19世紀に入ってからは、技術面で特徴ある工場を次々と傘下におさめ、業容を拡大するとともに新しい作品への挑戦も継続していきます。
1840年には緻密な絵付けで好評を博していた「チェンバーレイン(Chamberlain)」を買収。
出典: Museum of Royal Worcester (チェンバーレイン)
1852年にはボーンチャイナとエナメルカラーでの絵付けに強みをもつ「カール&ビンズ(Kerr & Binns)」を買収。
出典: Museum of Royal Worcester (カール&ビンズ)
1889年には実用的でありながあら装飾的なデザインが特徴の「グレンジャー(Grainger)」を買収。
出典: Museum of Royal Worcester (グレンジャー)
1905年には濃い青・緑・茶などの素地で他社と一線を画していた「ハドリー&サンズ(Hadley & Sons)」を買収しています。
出典: Museum of Royal Worcester (ハドリー&サンズ)
1873年に製作されたジャポニストというペアの花瓶は、インディアナポリス美術館に収蔵されています。
製作当時の芸術界で流行したジャポニズムを陶磁器で表現したもので、実用的な食器に留まらず芸術作品までも生み出すロイヤルウースターの技術力を誇示するかのような作品です。
出典: Wikipedia (ジャポニスト)
1882年に製作されたこちらのティーポットは、女性をかたどった人形のように精巧な造形です。
他の陶磁器メーカーとは一線を画するようなデザインは、ロイヤルウースターの高い技術力によって実現されています。
出典: Museum of Royal Worcester (女性を象ったティーポット)
しかしながら、20世紀に入ってからは、海外製品との激しい競争にさらされ、1976年にはスポードと経営統合し、ウースターの工場はストーク・オン・トレントへ移転、また、そのスポードも2009年にはポートメリオンの傘下入りすることとなりました。
ロイヤルウースターを代表的するシリーズ
1789年に「ロイヤル」の称号を受けて以降、いまなおイギリス陶磁器界の最高峰としての地位を維持し、実用品としての食器だけではなく、洗練された芸術作品を生み出してきたロイヤルウースター。その高い技術力と品質は、現代でも世界中のマニアを唸らせています。
1)ペインテッド・フルーツ(Painted Fruit)
出典: ロイヤルウースター 公式サイト (ペインテッドフルーツ)
1770年に初登場して以来、200年にもわたって進化を続けてきたモチーフです。
18世紀後半に、造形師・絵付師が一般的になりすぎた中国風のデザインからはなれ、ヨーロッパ風のデザインを模索し生まれました。
「ペインテッド・フルーツ」はロイヤルウースター最高の芸術作品との呼び声高く、フリーハンドでの絵付けと焼成を6回繰り返して製作されます。
さらに22金のメッキを11時間かけて施し、研磨と輝きを出す工程を経て生み出されます。
高度な技術と手間のかかる工程から、少なくとも7年以上の修業を経た熟練の職人にだけ製作を許されたロイヤルウースターの英知の結晶ともいえるシリーズです。
写実的でまるで絵画のようにフルーツが生き生きと描かれています。
2)イヴシャム・ゴールド(Evesham Gold)
出典: ロイヤルウースター 公式サイト (イヴシャム・ゴールド)
20世紀のロイヤルウースターで最も人気の高かったシリーズ、イヴシャム・ゴールド。
1961年に製造され始め、アップル、ブラックカラント、ピーチ、ブラックベリー、洋ナシ、西洋スモモ、チェリー、プラムといった、イヴシャム渓谷のイギリスを代表する秋の果物をテーマに描かれています。
乳白色の白磁のボディに金の縁取り(電子レンジ対応可)が施され、ペインテッド・フルーツで得意としてきたフルーツモチーフを現代へとつなげる作品です。
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