出典:KPMベルリン公式サイト
「華やかでロマンチックなデザインが好き!」「せっかくティーカップを買うなら、ヨーロッパの貴婦人が使ったようなデザインがいいな」―そう思う方もいるかもしれませんね。
そんなあなたには「KPMベルリン」がおすすめです。
日本ではまだあまり知られていませんが、実はマイセンと肩を並べるドイツ主要7窯の1つにあげられる窯なのです(ちなみに、他は、ヘキスト、ニンフェンブルク、フュルステンベルク 、フランケンタール、ルドヴィヒスブルク )。
特に、ロココ調のデザインは種類が豊富。
中でも「ロカイユ」というシリーズは、現在、ベルリンにあるドイツ連邦の大統領官邸「ベルビュー宮殿」でも使用されています!
出典:depositphotos.com(ベルビュー宮殿)
しかし、魅力はこれだけではありません。近年、イタリアの高級ブランド「ボッテガ・ヴェネタ」や超高級車メーカー「ブガッティ」とコラボするなど、老舗の窯であるにもかかわらず、革新的なチャレンジもしています。
今日はこの「KPMベルリン」の歴史や人気シリーズ、最新の注目商品を紹介します。これを読めば、あなたも「KPMベルリン」ファンになるかも!
KPMベルリンの「K」は「王立」を意味する
出典:KPMベルリン公式サイト(KURLAND Royal Noir)
KPMベルリンの正式名称はドイツ語で「Königliche Porzellan-Manufaktur Berlin GmbH」と言います。お分かりのように、「KPMベルリン」とは、正式名称の大文字の部分を取ったものです。
名前の最初にある「Königliche」とは、英語で言うと「Royal」、つまり、「王立」という意味です。
日本語では、「ベルリン王立磁器製陶所」と呼ばれることもあります。ヨーロッパの名窯の多くは、王侯貴族と密接な関係がありますが、この「KPMベルリン」も例外ではありません。
250年以上、伝統を守り続けているこの窯は、どのような歴史の中を生き抜いてきたのでしょうか。
フリードリヒ大王が自ら起業。一番のロイヤル・カスタマーでもあった
出典:Wikipedia(フリードリヒ2世)
KPMベルリンは1763年、ドイツ史上最も傑出した統治者と言われるプロイセン王国のフリードリヒ大王こと、フリードリヒ2世によって設立されました。
このフリードリヒ大王は、七年戦争でアウグスト3世の統治するザクセンを攻略したことで、マイセンから陶工を引き抜いて開窯。
即位前の称号であるブランデンブルグ選帝侯の紋章「王の笏(しゃく:杖のようなもの)」を工房にロゴとして与え、自ら起業家となって立ち上げました。
出典:KPMベルリン公式サイト(王の笏のロゴ)
出典:KPMベルリン公式サイト(王の笏のロゴ)
(*)現在の「KPMベルリン」のロゴマーク。創業当時と同じ、王の笏のモチーフを使用している。
この工房は王自らが陣頭指揮を執り、のちに企業のモデルとなる先進的な取り組みを次々と行いました。
例えば、児童労働の禁止、平均以上の給与の確保、年金や健康保険基金の整備、未亡人や孤児への支援などを経営に取り入れたのです。
出典:KPMベルリン公式サイト(HIGHEST PRECISION)
フリードリヒ大王は、「KPMベルリン」の経営者でもあり、一番のロイヤル・カスタマーでもありました。
「KPMベルリン」のオーナーになったことで、フリードリヒ大王は「今度会う王様へのプレゼント、どうしよう・・・」という悩みから解放されたと言われています。
大王もそんなことで頭を悩ませていたとは、なんだか親近感がわいてきますね。
当時、磁器はヨーロッパの王侯貴族の中で人気でしたが、大変高価で貴重なものだったため、他国への外交上のプレゼントとしてぴったりだったのです。
フリードリヒ大王がプレゼントしたKPMベルリンの磁器は、ヨーロッパの王室の宮殿だけでなく、遠くロシア皇帝の宮殿からも多数、見つかっています。
また、フリードリヒ大王は生涯で450ピースから成る、21のディナーセットを注文したとも言われています。
ロココの気品にあふれたシリーズを次々と生み出した
出典:KPMベルリン公式サイト(Designer FRIEDRICH ELIAS MEYER、1723-1785)
フリードリッヒ大王は、学問だけでなく、フルートなどの音楽に通じた芸術的、文化的才能も持ち合わせた人物としても知られています。
当時は「ロココ様式」が流行しており、フランス文化にも精通する大王もまたこの様式を愛していました。「ロココ様式」とは、ルイ15世時代のフランス宮廷で花開いた様式のことで、バロック様式に続く時代の美術様式のことです。
その特徴は、下記の写真のように、貝殻や植物の葉にインスパイアされた複雑な曲線やフェミニンな色使いと言われています。
出典:Wikipedia(Rococo Table design by Juste-Aurele Meissonier 、1730)
フランスのポンパドール夫人も愛した様式です。ちなみに、ロココとは、もともと洞窟や噴水を装飾するために用いられた小石や貝殻のことを指すフランス語の「ロカイユ(Rocaille)」という言葉からきたものです。
フリードリヒ大王は「KPMベルリン」で次々とロココ様式のデザインのシリーズを生み出していきます。中でも代表的なものが、1767年に発表の「ロカイユ」シリーズ。
出典:KPMベルリン公式サイト(ロカイユ)
冒頭にも紹介しましたが、このロカイユは、現在もドイツ連邦の大統領官邸であるベルリンの「ベルビュー宮殿」での晩餐会でも使用されていて、今も各国の大切なお客様をもてなしています。
また、トップの写真にも使用した上記の淡い水色の花が特徴の「ブルームーラン(Bleu Mourant)」は、フリードリッヒ大王のお気に入りのシリーズ!
出典:KPMベルリン公式サイト(ブルームーラン)
ノイツィラート(Neuzierat)というロココ様式のシェイプに上品な水色の花の装飾をほどこした、1784年発表の逸品です。
3つめは、「クアランド(Kurland)」。
出典:KPMベルリン公式サイト(クアランド)
1790年のデザインの誕生から今日に至るまで、「KPMベルリン」の中でも成功を収めているシリーズの1つです。
リボンのドレープが美しく、ヨーロッパの荘厳さを思わせます。デザイン誕生後、のちにクアランド侯爵の名前を冠したシリーズ名になりました。
250年以上の老舗の窯でありながら、時代に柔軟に対応し、先端を走っている
「KPMベルリン」はその歴史に固執せず、常に時代をとらえ、幅広い活動で時代の先端を走り続けているのも特徴です。
例えば、有名ブランドとのコラボレーション。超高級車メーカーの「ブガッティ」とともにプロジェクトチームを作り、ロゴなど車内の一部にKPMベルリンの磁器を埋め込むなど、唯一無二の製品を生み出しています。
出典:KPMベルリン公式サイト(ブガッティとのコラボレーション)
また、イタリアの高級ブランド「ボッテガ・ヴェネタ」との協力で生まれたティーセットや、
出典:KPMベルリン公式サイト(ボッテガ・ヴェネタとのコラボレーション)
ドイツを代表するシューズメーカー「ビルケンシュトック」とのコラボ商品には、さりげなくKPMベルリンのロゴがあしらわれています。
出典:KPMベルリン公式サイト(ビルケンシュトックとのコラボレーション)
ほか、世界的に有名な地元の「ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団」とのコラボレーションした花瓶もあります。
出典:KPMベルリン公式サイト(ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とのコラボレーション)
今なお、地元でのハンドメイド&ハンドペイントにこだわり続ける「KPMベルリン」
出典:KPMベルリン公式サイト
マイセンの精神を受け継ぐ「KPMベルリン」。現在もほとんどが職人の手によって作られています。
それは、原型を作る前のモデルを作るところから、成型や絵付けに至るまで。「KPMベルリン」の青いロゴスタンプを押して完成するまでに、厳しい品質チェックの段階があり、それを通過したものだけが製品として世に送り出されます。
出典:KPMベルリン公式サイト
「KPMベルリン」の4大人気シリーズを一挙、ご紹介!
おまたせしました。「KPMベルリン」の人気商品を紹介します。ロココ調だけでなく、モダンデザインや時代の先端を行く「コーヒータンブラー」なんてのもあるから驚きです!
1)クアランド(KURLAND)
出典:KPMベルリン公式サイト(クアランド)
先にも紹介したKPMベルリンを代表するシリーズ。KPMベルリン誕生250年を記念して、2013年に2つのシリーズが発表されました。
1つは「クアランド・ブラン・ヌーボー(KURLAND Blanc Nouveau)」。
出典:KPMベルリン公式サイト(クアランド・ブラン・ヌーボー)
白磁に鮮やかなブルーとリボンが映えますね。下記の写真は「アクア」という種類ですが、他に5種類もの色違いもそろっています。
「アクア」より少し薄いブルーの「ラグーン」
出典:KPMベルリン公式サイト(クアランド・ブラン・ヌーボー)
また、ピンク系の「アプリコット」や
出典:KPMベルリン公式サイト(クアランド・ブラン・ヌーボー)
紫系の「ラベンダー」、
出典:KPMベルリン公式サイト(クアランド・ブラン・ヌーボー)
さらにオレンジ系の「マンダリン」、
出典:KPMベルリン公式サイト(クアランド・ブラン・ヌーボー)
黄色系の「ピスタチオ」もあります。どれも華やかで1つを選ぶのが難しいですね!
出典:KPMベルリン公式サイト(クアランド・ブラン・ヌーボー)
もう1つのシリーズは、「クアランド・ロイヤル・ノア(KURLAND ROYAL NOIR)」。ロイヤルの名前のとおり、宮殿の装飾を思わせる、荘厳で上品なシリーズです。
出典:KPMベルリン公式サイト(クアランド・ロイヤル・ノア)
3)ロカイユ(Rocaille)
出典:KPMベルリン公式サイト(ロカイユ)
KPMと言えば、ロココ様式。ロココと言えばロカイユ。
丸みを帯びた「ロカイユ」シリーズは、優雅なアフタヌーンティーにぴったり!コロンとしたティーポットと合わせたら、フランスの貴婦人のお茶会にタイプスリップした気分になれますよ。
出典:KPMベルリン公式サイト(ロカイユ)
3)ウルビノ(Urbino)
出典:KPMベルリン公式サイト(ウルビノ)
1931年に発表されたウルビノ。1919年にドイツに誕生したバウハウスの精神を受け継いだTrude Petri氏によってデザインされました。
ウルビノは1937年、パリの万国博覧会でグランプリを受賞。現在は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久コレクションにも選ばれている、卓越したデザインの逸品です。
4)ベルリン(Berlin)
出典:KPMベルリン公式サイト(ベルリン)
1996年にEnzo Mari氏によってデザインされた、クラシックでありながら、新たなテイストが加味されたシンプルなデザイン。
1998年には、毎年、全世界の優れた工業製品を表彰する「iFデザイン賞」を見事、受賞。現在もKPMベルリンを代表するシリーズです。
ティーポットもコロンと丸みのあるところが愛らしいけれど、スタイリッシュでもありますね。
出典:KPMベルリン公式サイト(ベルリン)
5)携帯用コーヒータンブラー(To-go Cup)
シリーズではありませんが、最後にご紹介したいのは、携帯用コーヒータンブラー(To-go Cup)!
出典:KPMベルリン公式サイト(To-go Cup)
これは現代のKPMベルリンの真骨頂でもあるかもしれません!環境先進国であるドイツらしい、携帯タンブラーです。
なんと、1790年からあるクアランドのデザインを取り入れています。まさに、伝統とモダンの融合。黒と白の2色展開です。
いかがでしたか?
KPMベルリンは、アンティークでも人気がありますが、現代のシリーズも匠の技が生きる逸品ばかり。
日本で直にお目にかかる機会は少ないので、ぜひ一度、本国ドイツのウェブサイトを覗いて、その卓越したデザインを確認してみてくださいね!
参考資料
『すぐわかる ヨーロッパ製陶の見かた』(東京美術)