「アンティーク風の食器もいいけど、北欧デザインも好き」「毎日使いたいから、シンプルかつデザイン性のあるものがいいな」―食器に関する希望は尽きないものですね。
そんな方にお勧めのが「ローゼンタール(Rosenthal)」です。
この「ローゼンタール」は19世紀から続く伝統ある窯なのですが、シュルレアリスムの巨匠サルバドール・ダリやポップアート界の巨人アンディ・ウォーホルなど、世界の名だたるアーティストやデザイナーとコラボして次々と新しい作品を世に送り出してきた食器ブランドなのです。
クラシカルなデザインだけでなく、モダンなデザインや北欧デザインも好きな方は要チェックです!
華やかかつ細やかな装飾が特徴のマイセンを生んだドイツ。そのドイツで19世紀に創業した歴史あるローゼンタールはなぜ、デザイナーズ食器の草分けと呼ばれる工房になったのかでしょうか。その歴史には、創業者と妻、その息子の物語がありました。
ローゼンタールは19世紀後半の1879年、フィリップ・ローゼンタール(下記写真)によって設立されました。創業はチェコと直接国境を接するドイツのゼルプという街で、エアカースロイト城における磁器の絵付がその始まりでした。
出典:ローゼンタール本国公式サイト(Rosenthal History/ Philipp Rosenthal)
この工房での最初のヒット商品は、葉巻用の灰皿でした。丹念に絵付された灰皿で売り上げを伸ばしていったのち、フィリップは磁器そのものも作る製磁工房も立ち上げます。お皿やティーカップが有名になったのではなく、灰皿だったというのがおもしろいですね。
妻の名前にちなんで食器セットを「マリア・ホワイト」と命名し、ベストセラーに
フィリップ・ローゼンタールは仕事だけでなく、私生活も充実して順風満帆でした。1916年には2番目の妻マリア・ローゼンタールと結婚(下記写真参照)し、のちに後継者となる男の子にも恵まれます。
出典:ローゼンタール本国公式サイト(Maria, Philipp Rosenthal’s second wife)
フィリップはマリアを溺愛していました。その溢れんばかりの愛から、磁器のサービス(食器セット)を妻の名前にちなんで「マリア・ホワイト」と名付けました。
そのクラシカルなフォルムの白い磁器は人気を呼び、その後、ミリオンセラーを突破し、ベストセラー商品となりました。
父が興したローゼンタールを、息子が時代に合わせて洗練させていった
出典:ローゼンタール日本公式サイト(ムーン)
戦後の1950年、後継者であるフィリップ・ローゼンタール2世(以下、フィリップ2世と略)が会社に参画します。
フィリップ2世は当初、広告のマネジメントからそのキャリアをスタート。その後、意匠のマネジメントを経て、販売統括責任者となり、ローゼンタールに多大な影響をもたらしました。
フィリップ2世の功績でもっとも大きなものは、1961年の「スタジオライン」シリーズの開発です。
出典:ローゼンタール日本公式サイト(ローゼンタール・スタジオライン)
フィリップ2世は「いつまでも真の価値を持ち続け、時代の感覚に合っているものこそ本物」 という思いをもっていました。
その思いを具現化するために、当時としては大変斬新な、時代を代表する芸術家やデザイナーとコラボレートした作品を発表する 「スタジオライン」をリリースしたのです。
デザイナーとのコラボレートで商品を開発することが流行するずっと前から、世界的にも有名なコンテンポラリーアートの芸術家や建築家、デザイナーなど150人以上を起用し、作品を生み出し続けています。代表的なデザイナーは、先に紹介したサルバドール・ダリやアンディ・ウォーホルだけではありません。
スタジオラインに参画した有名デザイナーは例えば、
- 「プリントの王子」の異名を持つイタリアの「エミリオ・プッチ」
- 現代のデザイン界にも大きな影響を与え続けているドイツ・バウハウス初代校長の「ヴァルター・グロピウス」
- 北欧デザインを世界に知らしめたフィンランドの巨匠「ティモ・サルパネヴァ」
- 舞台芸術から陶器まで幅広く活躍したデンマークの国民的アーティスト「ビョルン・ヴィンブラッド」
などです。これらの巨匠がデザインしたシリーズの一部は後半で詳しくご紹介するので、お楽しみに!
出典:ローゼンタール本国公式サイト(ヴァルター・グロピウスとフィリップ2世)
ローゼンタールはこれまでの歴史の中で世界的にも数々の賞に輝き、その数はなんと500以上!2016年だけでも10以上のアワードに輝いたそうです。
この背景には、卓越したデザインの数々はもちろんのこと、デザイナーの思いをくんで、形にする技術をローゼンタールが継承し続けているからこそ。この栄光は、受け継がれてきたドイツのマイスターの技と時代の先端を行くデザインのコラボでもあったのです。
「傑作」といっても過言ではない!「スタジオライン」の5大人気シリーズを紹介
それでは、大御所のデザイナーたちが腕をふるったシリーズの中から特に有名な5つを紹介します。ここで紹介する商品は現在もローゼンタール取り扱い百貨店や公式オンラインショップで購入することができます。
1)魔笛(Magic Flute)
出典:ローゼンタール日本公式サイト(魔笛)
モーツアルトの名作オペラ「魔笛」を表現したシリーズです。
陶器やガラスから、舞台芸術に至るまで幅広く活躍したデンマークの国民的アーティスト「ビョルン・ヴィンブラッド」によるデザイン。
出典:ローゼンタール日本公式サイト(デザイナーについて/ビョルン・ヴィンブラッド)
精巧なレリーフや、ソーサー裏面に筆記体であしらわれた歌劇「魔笛」の歌詞(下記写真参照)などから、「歴史に残る傑作」と言われています。
出典:ローゼンタール日本公式サイト(魔笛)
ゴールドのほかにカップ、ソーサーともに白磁の「魔笛ホワイト」もあります。
出典:ローゼンタール日本公式サイト(魔笛・ホワイト)
2)スオミ(Suomi)
出典:ローゼンタール日本公式サイト(スオミ)
北欧デザインを世界に知らしめたフィンランドの巨匠「ティモ・サルパネヴァ」作の人気シリーズ。
出典:ローゼンタール日本公式サイト(デザイナーについて/ティモ・サルパネヴァ)
「水辺で波に洗われた小石」にインスパイアされたデザインです。フランスのポンピドゥーセンター(ジョルジュ・ポンピドゥー国立芸術文化センター)の永久コレクションにも選ばれています。
3)ムーン(Moon)
出典:ローゼンタール日本公式サイト(ムーン)
現在、世界で最も影響力のあるプロダクト・デザイナーと言われているイギリスの「ジャスパー・モリソン」。
出典:ローゼンタール日本公式サイト(デザイナーについて/ジャスパー・モリソン)
彼が提唱する“スーパーノーマル”というポリシーのもと、不要なものをそぎ落とした、シンプルかつベーシックなデザインで多くの賞に輝いた現代の傑作です。
出典:ローゼンタール日本公式サイト(ムーン)
4)TAC
出典:ローゼンタール日本公式サイト(TAC)
1919年、世界初の本格的なデザイン教育機関として生まれた「バウハウス」。その創立者のひとりであり、初代校長を務めた建築家「ヴァルター・グロピウス」による作品です。
出典:ローゼンタール日本公式サイト(デザイナーについて/ヴァルター・グロピウス)
バウハウスでは造形学で教鞭をとっていたヴァルター・グロピウス。
その彼が機能性と造形美を追求して生み出したモダンデザインの傑作です。TACは多くの美術館で永久展示品として所蔵されています。
出典:ローゼンタール日本公式サイト(TAC)
実は現在のローゼンタールの工場はヴァルター・グロピウスによる建築。TACシリーズだけでなく、工場までも歴史的な価値が高く、モダニズム建築の傑作と言われています。
5)ランドスケープ(Landscape)
出典:ローゼンタール日本公式サイト(ランドスケープ)
スペイン生まれでミラノ在住のパトリシア・ウルキオラ。
今、最も注目を集めるプロダクト・デザイナーとしても有名です。2015年には高級家具カッシーナのアート・ディレクターとして就任しました。
出典:ローゼンタール日本公式サイト(デザイナーについて/パトリシア・ウルキオラ)
出典:ローゼンタール日本公式サイト(ランドスケープ)
このランドスケープは、「白い磁器がどんな料理にも溶け込み、普段の生活の中でも、特別な日の中でもテーブルに美しく調和した風景(=ランドスケープ)になるように」という思いを込めて作られました。2008年の発表と比較的新しいシリーズです。
スタイリッシュなシリーズだけじゃない!ローゼンタールの2大「クラシカルシリーズ」
出典:ローゼンタール日本公式サイト(ローゼンタール・クラシック)
ローゼンタールの魅力は「スタジオライン」だけではありませんよ!
19世紀の創業当時と同じシェイプを作り続けるなど、ドイツのマイスターだからこそできる「クラシカルシリーズ」も人気です。その中から特に人気の2つのシリーズを紹介します。
1)マリア・ピンク・ローズ
出典:ローゼンタール日本公式サイト(マリア・ピンク・ローズ)
出典:ローゼンタール日本公式サイト(マリア・ピンク・ローズ)
先にご紹介したフィリップ・ローゼンタールの2番目の妻マリア。その名前を冠したシリーズの中でもピンクの薔薇があしらわれた人気のもの。古典的なシェイプに彩られた薔薇が上品です。
2)サンスーシ・ブルー
出典:ローゼンタール日本公式サイト(サンスーシ・ブルー)
出典:ローゼンタール日本公式サイト(サンスーシ・ブルー)
1747年にドイツに建てられ、世界遺産にも登録されているロココ様式のサンスーシ宮殿。
その庭園や自然をモチーフにした華麗なシリーズです。ローゼンタールの中で最も古いデザインの1つで1894年から続く伝統パターンです。
いかがでしたか?
ローゼンタールは「アートのある暮らし」をコンセプトにしていますが、スタジオラインやクラシックシリーズはまさに「生活の中のアート」そのものですね。
気になった方は、ぜひ公式ホームページや取扱店舗で手に取って、そのデザイン性を味わってみてくださいね!
参考資料
『ヨーロッパ陶磁器の旅 ドイツ・オーストリア篇』(中公文庫)
『Casa Brutus 器の教科書』(マガジンハウス)