シャンティイへのアクセスと観光スポット
パリ北駅からSNCF鉄道で約30分のオー=ド=フランス地域圏、オワーズ県のコミューンに位置するシャンティイは、春から秋を中心に年間50万人の観光客が訪れる、緑と湖が美しい街です。
またシャンティイという名前はホイップクリームのフランス名「crème chantilly(クレーム・シャンティイ)」に由来しているそうです。
出典:Wikipedia(クレーム・シャンティイ)
美しい森に囲まれた街には、15~19世紀にかけて栄えた、フランス王室と縁の深い名門貴族・モンモラシー、コンデ家の居城・シャンティイ城がそびえます。
湖に美しく映るその外壁。
出典:https://www.domainedechantilly.com/
城内にあるコンデ美術館には数々の美術品が並び、特に1850年以前の絵画コレクションの多さは、ルーブル美術館に次ぐ規模を誇ります。
出典:https://www.domainedechantilly.com/
また、シャンティイはフランス国内最大級の競走馬トレーニングセンターを有し、毎年ジョッケクルブ賞など競馬レースが開催され、夏の花火大会と並んでここでしか味わえない観光名所の一つとなっています。
シャンティイ陶磁器を支えた若き公爵 ー ルイ・アンリ・コンデ公
そんな貴族が愛した街シャンティイ。18〜19世紀にかけてシャンティイ陶磁器生産が街の繁栄を支えます。
ここでそのシャンティイ陶磁器において最も重要な人物をご紹介しましょう。それは、若くして優れた芸術の審美眼を持っていたルイ・アンリ・コンデ公(1692−1740)。
出典: Wikipedia (ルイ・アンリ・コンデ公)
早くから東洋文化に精通していたコンデ公は日本や中国からの陶磁器輸入による莫大な出費を抑えるため、シャンティイでの東洋風陶磁器の生産を決心します。
1730年彼は陶磁器工房を建設し、その工房周辺の通りは「rue du Japon(日本通り)」と呼ばれました(現在はrue de la Machine)。
気鋭の職人達の知恵と才能が生み出したシャンティイ陶磁器
そしてそんな彼の熱望を実現したのが、気鋭の陶磁器職人・Cicare Cirou(シケール・シルー)(1700−1755)です。
シルーに関する文献は殆ど残されていませんが、1720年頃、彼はパリ南郊部サン・クルー(Saint-Cloud)で、磁器焼成法の技術を磨きます。
その後、コンデ公によってシャンティイに呼ばれ、1736年シャンティイでの陶磁器生産とその秘伝の生産方法の保護に対する勅許状が与えられました。
それ以降、シルーは1751年までシャンティイ窯の総責任者としてその生産運営全てを委ねられ、シルーと共にサン・クルーから呼ばれた名造形師・ルーアン出身のルイ・グジョンを筆頭に13人の職人の手によって、当時フランスではシャンティイでしか目にする事が出来なかった秘伝の陶磁器生産が行われました。
穏やかな森に囲まれた街で、当時彼が率いるシャンティイ窯が、栄光の時代を飾り、フランス陶磁器界を魅了したのです。
シャンティイ陶磁器の魅力
そんなシャンティイ陶磁器の特徴は、軟質磁器特有の柔らかく緩やかな風合いに、当時非常にモダンであった中国、日本の磁器デザインを模した形態です。
特に日本の磁器として、佐賀県伊万里焼の柿右衛門様式と呼ばれる彩り鮮やかで繊細なタッチが特徴のデザインが好まれました。
出典:Wikipedia(シャンティイ焼、柿右衛門様式、1725-1751)
染料、土、窯、そして微妙な製法の違いによってとても繊細に焼き色が変わってしまう陶磁器。
しかも当時フランスには東洋磁器生産に欠かすことの出来ない原料・カオリンがまだ発見されていませんでした。にも関わらず、シルーの卓越した陶磁器技術によって、新たな輝きを持って東洋磁器が再現されたのです。
また、軟質磁器は歩止まりが悪く製法が難しいとされていた一方で、シャンティイ窯では食器は勿論、小物入れ、香炉、ジャグ、ハンドルなどありとあらゆる物が生産されたのも特徴的です。
出典:Wikipedia(シャンティイ焼、1750-1755)
シルーの引退後、シャンティイ陶磁器は東洋風スタイルに代わって、より曲線的で華やかなロココ調へ、そして晩年はカーネーションや小花をモチーフとしたクラシックなデザインへと変貌を遂げていきます。
出典:Wikipedia(シャンティイ焼、1760)
フランス革命(1789年)勃発後、フランスの多くの陶磁器窯は倒産に追い込まれ、シャンティイ窯はイギリス人の手に渡ります。
そして19世紀中頃シャンティイでの陶磁器生産は姿を消す事となります。
華やかな貴族文化と共に、18世紀フランス陶磁器文化の栄華を極め、激動のフランス革命時代を越え、ひっそりとその栄華の幕を閉じたシャンティイ窯。
是非、パリ滞在の途中に足を伸ばしてみてはいかがでしょうか。